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とある科学の超電磁砲S もふもふひざ掛け 四人柄 とある科学の超電磁砲S もふもふひざ掛け 四人柄 発売日 :2013年8月31日 発売 商品情報 ・サイズ:100×75cm ・素材:ポリエステル100%、マイクロファイバー
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WinRAR体験版 インストール後40日間使用出来ると思います。 40日後必要なければアンインストールすればOKです。 WinRAR DLリンク先
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サーバーへ接続するまでの手順 アカウントの作成 下記のページでアカウントを作成してくる。 http //www.yingshakls.cn/reg.asp 入力できる項目が3つあり、上2つ(ID・パスワード)を正しく入力する。 3つ目の欄はメールアドレスだが、認証など特に無いので適当な羅列でOK。 入力を終えて送信ボタンを押すと、図のような警告がポップする。 しかしこれはアカウントが正しく作成された旨のメッセージとなっている。 ダウンロード 以下のサイトから必要となる 2つのファイルをダウンロードする。 http //www.yingshakls.cn/down.html YSclient.rar English_Patchs.rar dengluqi.rar (ロケールを中国語で使用する場合のみ) クライアントのダウンロードに苦戦する場合は、DL支援ツールを利用する。 Flash Get http //www.flashget.com/index_jp.htm Orbit downloader http //www.orbitdownloader.com/jp/index.htm Irvine http //hp.vector.co.jp/authors/VA024591/ RAR解凍ソフトを用意する。無い場合は下記などから入手しておく。 +Lhaca http //park8.wakwak.com/~app/Lhaca/ WinRAR http //www.diana.dti.ne.jp/~winrar/index.html ファイルの展開と調整 RAR圧縮形式の YSclient フォルダを解凍し、デスクトップなど任意の場所へ展開。 フォルダ YSclient の中から、以下の風邪気味な不純物を削除する。 ikspeed.dll 影xx登録器.exe RAR圧縮形式のパッチを解凍するが、英語版を使う場合は English_Patchs を。 中国語で使う場合は dengluqi となり、二つともupdateさせる必要はありません。 そして解凍したフォルダの中から、以下のファイルのみを YSclient フォルダへドラッグ移動させ、上書き処理する。 update.dat serverlist.ini ikcst.dll Game.bin 念のために、serverlist.iniの接続先IPアドレスを確認する。 万一この先の段階で接続できないという状況になった場合、このIPアドレスを確認しよう。 10月28日のアップデートで、サーバーへのIPアドレスの指定ミスと、Englishパッチの不具合が発生。不具合が修正されたパッチとserverlist.iniは こちらから入手 できるが、いずれも10月28日のバージョン用となっている。その他日本語版パッチは こちらから入手 してください。 接続する YSclientフォルダのファイル構成内容は図のようになっているはずです。 (ScreenShotフォルダはデフォルトでは生成されておりません) 次に、この中にある cronousupdate.exe を実行する。 正しくパッチの上書きがされていれば、サーバーリストが上図のようになる。 コメントフォーム d-en.zipのpass教えてください。 -- ななし (2009-01-19 10 00 16) 以下のサイトからって・・・・飛んだらダメだったんだが・・・・ -- 名無しさん (2009-08-02 17 06 14) ダウンロード出来ない系 -- 名無しさん (2009-08-07 19 58 26) dlの鯖みつかりません;; -- 名無しさん (2009-08-08 10 16 45) 接続して遊んでいるのですが、英語パッチがなくて手探り状態です。どこかに使える英語パッチってありませんでしょうか? -- 名無しさん (2009-09-06 00 51 43) http //www.yingshakls.cn/reg_en.asp ここで英語パッチも蔵も登録もできる -- 名無しさん (2009-09-13 12 17 49) d-en.zip パス 何かわからん・・・・ -- 名無しさん (2009-09-20 16 30 14) わかりました、ありがとうございました -- 名無しさん (2009-10-01 23 05 53) 英語パッチと蔵の奴が消えとる・・・DLできない・・・・・ -- 名無しさん (2009-10-28 16 47 43) 1鯖10.28Englishパッチ どこで取れますか?ググってもでないんですが -- 名無しさん (2009-10-28 22 00 05) 上のURLからID登録してるんですがゲームで試したらできません、なぜでしょうか? -- 名無しさん (2009-10-30 20 01 26) 名前 コメント 本日: - 昨日: - 合計: - D
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うぬ作成 部品構造 大部品 とある少年のお墓 RD 14 評価値 6大部品 小さな墓石 RD 2 評価値 1部品 彫られた文字 部品 ささやかな装飾 大部品 お供え物 RD 7 評価値 4部品 ふわふわのぬいぐるみ 部品 可愛いリボン 部品 お菓子 部品 お水とジュース 部品 綺麗な花 部品 特別な灯籠 部品 お線香 大部品 お墓の手入れ RD 3 評価値 2部品 お墓周辺の清掃 部品 墓石などの洗浄 部品 水の拭き取り 大部品 遺骨の代わり RD 1 評価値 0部品 土と砂 大部品 少年への思い RD 1 評価値 0部品 覚悟 部品定義 部品 彫られた文字 その少年に名前はなかった。というよりも、誰も知らなかった。とある英雄によく似た、その顔と白い羽は網膜に焼き付いたように頭から離れなかったが、少年を英雄と同じ名で呼ぶことに躊躇し、墓石に彫る名前に悩む。そして、散々悩んだ末に一文字。墓石に、翼(つばさ)と彫った。 部品 ささやかな装飾 墓石は白いものを選んだ。それだけならただの白い石だが、華美でない模様などを彫り込み、角に丸みを加えて同じものが二つとないものに仕立てた。 部品 ふわふわのぬいぐるみ 定期的に入れ替わるお供え物のぬいぐるみは、全て手作りである。主に隊長が仕立ててくるが、中には親衛隊の誰かが持ってきてくれたもの、優しいひとが作ってくれたものなども。猫のぬいぐるみが多い。 部品 可愛いリボン 主にピンク色でヒラヒラしたレースの飾りがついたリボン。少年の墓には不釣り合いと言われるかも知れないが、あの英雄と近い存在ならば、きっとこういうのも好きだったはずだと可愛いリボンを仕立ててくる。好きな色とか、聞きたかったなぁと思いながら。 部品 お菓子 選ばれるのはやはり甘いもの、おまんじゅうやクッキーも。手作りのものも供えられる。直接は置かずに、懐紙の上に乗せられている。動物などに荒らされないように、長い間同じものは置かずに掃除の都度持って帰っている。 部品 お水とジュース 綺麗な飲み水と、子供が好みそうなフルーツのジュースが供えられている。食べ物同様、動物などに荒らされないように掃除のたびに持ち帰られている。 部品 綺麗な花 その季節の美しい花を選んで供えている。お墓の供物にしては少し不釣り合いかもしれないが、この子には色んなものを見てほしかったと言う願いを込めて、色とりどりの花や、編まれた花の冠なども置かれている。 部品 特別な灯籠 月と太陽の模様が彫られた灯籠は、直接灯りをつけていなくても「日中は太陽の明かりが、夜は月明かりが灯される」ということを意味する。少年の行く道が明るく暖かな場所でありますように、そう願ってつけられたもの。 部品 お線香 強すぎない香りの、一般的なお線香。優しいお香の匂いに包まれて安らかに眠ってね、という気持ちが込められている。 部品 お墓周辺の清掃 周辺に生える小さな雑草抜き、落ち葉集めもきちんと行われる。そのためいつ来ても綺麗であり、お墓詣りにくる人たちが自ら自主的に行ってくれているのが伺える。 部品 墓石などの洗浄 綺麗な水を含ませた布やスポンジで丁寧に磨かれる。このとき、花筒や線香皿も一緒に洗う。苔などが付着している場合も取り除き、花筒や線香皿はちゃんと中身を取り出して洗う。 部品 水の拭き取り 清掃が終わった後は、墓石、花筒、線香皿の水気もちゃんとタオルで拭き取る。水分が残っていると苔の原因となるため、これらも丁寧に行われている。 部品 土と砂 少年が降り立ったと思しき場所の、世界忍者国の土と砂をかき集めたもの。遺骨はなく、彼の存在を証明するのは己の記憶しかない。それでも。少年の血の赤も、汚れたぬいぐるみも、舞った白い羽も、銃声も、光も、愛らしい顔も全て忘れたことはなかった。独り善がりだとは思う、それでも、この子を忘れて生きるなんてできやしなかった。 部品 覚悟 言葉を交わしたわけでもない、声を聞いたわけでもない、名前も知らない、一緒に過ごしたわけでもない。それでも、この子は自分の、自分たちの声に応じてやって来てくれた。あなたがいなければ、きっとあの儀式は成功しなかった。それでも必要な犠牲なんてあるとは思いたくない。忘れることもしない、乗り越えることもしない。目の前で見たこの子の死を受け入れて生きようと決めた。もう誰も殺したくないと、強くなりたいと、そう思えるものをくれたのは紛れもなくこの子だったから。 提出書式 大部品 とある少年のお墓 RD 14 評価値 6 -大部品 小さな墓石 RD 2 評価値 1 --部品 彫られた文字 --部品 ささやかな装飾 -大部品 お供え物 RD 7 評価値 4 --部品 ふわふわのぬいぐるみ --部品 可愛いリボン --部品 お菓子 --部品 お水とジュース --部品 綺麗な花 --部品 特別な灯籠 --部品 お線香 -大部品 お墓の手入れ RD 3 評価値 2 --部品 お墓周辺の清掃 --部品 墓石などの洗浄 --部品 水の拭き取り -大部品 遺骨の代わり RD 1 評価値 0 --部品 土と砂 -大部品 少年への思い RD 1 評価値 0 --部品 覚悟 部品 彫られた文字 その少年に名前はなかった。というよりも、誰も知らなかった。とある英雄によく似た、その顔と白い羽は網膜に焼き付いたように頭から離れなかったが、少年を英雄と同じ名で呼ぶことに躊躇し、墓石に彫る名前に悩む。そして、散々悩んだ末に一文字。墓石に、翼(つばさ)と彫った。 部品 ささやかな装飾 墓石は白いものを選んだ。それだけならただの白い石だが、華美でない模様などを彫り込み、角に丸みを加えて同じものが二つとないものに仕立てた。 部品 ふわふわのぬいぐるみ 定期的に入れ替わるお供え物のぬいぐるみは、全て手作りである。主に隊長が仕立ててくるが、中には親衛隊の誰かが持ってきてくれたもの、優しいひとが作ってくれたものなども。猫のぬいぐるみが多い。 部品 可愛いリボン 主にピンク色でヒラヒラしたレースの飾りがついたリボン。少年の墓には不釣り合いと言われるかも知れないが、あの英雄と近い存在ならば、きっとこういうのも好きだったはずだと可愛いリボンを仕立ててくる。好きな色とか、聞きたかったなぁと思いながら。 部品 お菓子 選ばれるのはやはり甘いもの、おまんじゅうやクッキーも。手作りのものも供えられる。直接は置かずに、懐紙の上に乗せられている。動物などに荒らされないように、長い間同じものは置かずに掃除の都度持って帰っている。 部品 お水とジュース 綺麗な飲み水と、子供が好みそうなフルーツのジュースが供えられている。食べ物同様、動物などに荒らされないように掃除のたびに持ち帰られている。 部品 綺麗な花 その季節の美しい花を選んで供えている。お墓の供物にしては少し不釣り合いかもしれないが、この子には色んなものを見てほしかったと言う願いを込めて、色とりどりの花や、編まれた花の冠なども置かれている。 部品 特別な灯籠 月と太陽の模様が彫られた灯籠は、直接灯りをつけていなくても「日中は太陽の明かりが、夜は月明かりが灯される」ということを意味する。少年の行く道が明るく暖かな場所でありますように、そう願ってつけられたもの。 部品 お線香 強すぎない香りの、一般的なお線香。優しいお香の匂いに包まれて安らかに眠ってね、という気持ちが込められている。 部品 お墓周辺の清掃 周辺に生える小さな雑草抜き、落ち葉集めもきちんと行われる。そのためいつ来ても綺麗であり、お墓詣りにくる人たちが自ら自主的に行ってくれているのが伺える。 部品 墓石などの洗浄 綺麗な水を含ませた布やスポンジで丁寧に磨かれる。このとき、花筒や線香皿も一緒に洗う。苔などが付着している場合も取り除き、花筒や線香皿はちゃんと中身を取り出して洗う。 部品 水の拭き取り 清掃が終わった後は、墓石、花筒、線香皿の水気もちゃんとタオルで拭き取る。水分が残っていると苔の原因となるため、これらも丁寧に行われている。 部品 土と砂 少年が降り立ったと思しき場所の、世界忍者国の土と砂をかき集めたもの。遺骨はなく、彼の存在を証明するのは己の記憶しかない。それでも。少年の血の赤も、汚れたぬいぐるみも、舞った白い羽も、銃声も、光も、愛らしい顔も全て忘れたことはなかった。独り善がりだとは思う、それでも、この子を忘れて生きるなんてできやしなかった。 部品 覚悟 言葉を交わしたわけでもない、声を聞いたわけでもない、名前も知らない、一緒に過ごしたわけでもない。それでも、この子は自分の、自分たちの声に応じてやって来てくれた。あなたがいなければ、きっとあの儀式は成功しなかった。それでも必要な犠牲なんてあるとは思いたくない。忘れることもしない、乗り越えることもしない。目の前で見たこの子の死を受け入れて生きようと決めた。もう誰も殺したくないと、強くなりたいと、そう思えるものをくれたのは紛れもなくこの子だったから。 インポート用定義データ [ { "title" "とある少年のお墓", "children" [ { "title" "小さな墓石", "children" [ { "title" "彫られた文字", "description" 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https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2387.html
~~~side 入場~~~ 「…で?これは一体何の騒ぎなんだ?」 昼下がり、場所は路地裏の一角。 俺達チャイルドデバッカーが拠点とする廃墟の中で、男が三人並んで何かを眺めているという謎の状況下で しばらくの間、静観を決め込んでいた粉原が疑問を投げかけてくる。 その言葉を受けて視線を前方へ戻す。目の前に広がる光景は、まさしく惨状と言う言葉がよく似合うだろう。 「おいおい、今日が何の日か知らないのか?男なら待ち遠しくて堪らない日だってのに」 ともかく、粉原の疑問に応えておく事にしよう。今日は二月十四日、説明するまでも無く今日はバレンタインだ。 男三人が並んで眺めている先では、我らがチャイルドデバッカーが誇る女神達がてんやわんやと騒いでいる。 「そんな事は分かってる。確かに今日は『バレンタインデー』だが、それがどうしてこんな騒ぎになっているのかと聞いているんだ」 何処から調達したのか、俺達の拠点の一つである廃墟、もとい室内拠点には簡易的なキッチンが用意されている。 今は女の子達によって占拠されているそのキッチンは、通常なら四方、吉永の二人によって使用されるのみなのだが 今日に限っては四方っちと吉永の二人は他のメンバーに調理の手順をレクチャーするのみに留まり、キッチンを使用しているのは他の女子メンバー達だけだ。 「…大体は富士見のせいだよ。最も、普段の様子を見ていれば予測できた事だろうけど」 先ほどから隣でパソコンを弄りつつ無言を貫いていた樹堅が声をあげる。 どうやら何らかの作業にひと段落ついたらしく、ノートパソコンを畳みつつこちらに視線を向けている。 で、先ほどから俺達が述べている騒ぎとは、吉永に教えを受けていた富士見がチョコを爆発させたという物である。 なぜチョコを湯煎するだけの作業で爆発が起こるのかは甚だ疑問だが、富士見の不器用さは悪い意味で評判なので 驚きよりも呆れと「やっぱりな」という気持ちが大きい。 「吉永も大変だなぁ。四方っちも自分で教えてあげれば良い物を」 富士見が四方っちにぞっこんなのは明らかで、本人も気付いてるんだろうから相手をしてあげればいいのにと思わなくもない。 最も、四方っちを好いている奴は多いし、あんまり一人を特別扱いするのもアレなのかも知れない。瞳ちゃんは別として。 「馬鹿か。それこそ無駄に張り切った富士見が大惨事を起こすのが目に見えているだろう」 こいつは何を言ってるんだ、といった顔で粉原が反論してくる。 言われて想像してみる。…うん、これは、駄目だ。どう考えても酷い未来しか見えない。 吉永には悪いが、富士見へのレクチャーを回避した四方っちの判断は正しかったと言わざるを得ない。 そして、話題の要となっている四方っちはといえば…江向っちに教えているようだ。 もともと江向っちは料理とかも少しはするようだから、不慣れながらも着々と作業をこなしている。 「あぁ、確かに…。江向っちはそこまで不器用って訳でも無いし、教える人のチョイスも考えてあるようで抜け目ないな」 というか、むしろ四方っちが富士見に教えなかったのはこの惨事を予想してたからなんじゃあ… そう思うとやはり不憫なのは富士見の世話を押し付けられた吉永の様だ。相変わらず苦労人なようで同情を禁じ得ない。 「それにしても罪木は一人で作っているのか。あの子こそ教えが必要かと思うが…」 と、樹堅の言葉を聞いて視線をそちらに向ける。 そちらでは瞳ちゃんが一人でチョコを作っていた。ここから見る限りではかなり手際は良さそうだ。 料理や洗濯といった基本的な家事スキルは四方っちから教わっているのであろう事は容易に予想がつく。 樹堅の心配するような発言に対して、何時もの無表情を崩さないまま粉原が弁明を入れる。 「ひ…罪木については、一人でも作る事が出来るらしいから常に付いておく必要は無い、と四方に聞いた」 発言内容自体は予想通りだったが他の部分に引っかかりを覚える。 ひ…?ああ、もしかして粉原も普段は名前で呼んでるのかね? とっさに苗字で呼んだのは、俺達の前では言いにくかったからなのかも知れない。 しかし、そんな風に周りからの目を気にしている様な粉原はなんとなく新鮮だ。 瞳ちゃんと仲が良いのを必死に隠そうとしている。 そう考えると急に粉原が微笑ましく見えてくるのは不思議なことじゃないだろう。 気を取り直し、瞳ちゃんに視線を戻す。 今に限った話じゃあ無いが、チョコを一生懸命に作っている瞳ちゃんを見ていると色々と思うのだ。 四方っちの教育が良いのかこんな裏世界に身を置きながらも瞳ちゃんは純粋に育っているように見える。 「へぇ…、あの歳で大したもんだ。あと数年すればさぞかし良い女になるだろうなぁ」 瞳ちゃんの将来を考え、ついつい笑顔が浮かぶ。見た目の可愛さは今の時点で折り紙つきだ。 この様子なら俺の妹にも劣らない位になるかも…いや、それは流石に言いすぎか…いやしかし 隣の芝は青く見えるって言うしな。きっとそんな補正が掛かっているから瞳ちゃんがああも素敵な女の子に見えるのだろう。 こういう時は記憶の中で愛しの妹を思い浮かべるんだ…やっぱり妹が最高だな! だが待て、それで良いのか?それだけで終わらせても良いのか? そうだ。妹と瞳ちゃん、二人が並んで居る所を思い浮かべるんだ…どうだ?最高と至高が合わさり最強に見え… 「入場…年下好きもそこまでいくと流石に引くぞ…」 と、そこまで考えた所で樹堅の声で意識が現実に引き戻される。 気付けば隣にいた樹堅から非難の目を向けられている。おいおい、別に俺は年下好きなだけでロリコンじゃあねぇぞ! シスコンなのは認めるが、決してロリコンじゃないはず。瞳ちゃんへのこの気持ちもきっとその類の好意の筈だ、きっと。 「手を出そうなんか考えんじゃねぇぞ。少しは考えろ」 続いて粉原からも冷たい目線。というか、なんか顔が恐いぞ…。すげぇ怒ってないかこいつ。 目線が当社比125%くらいに鋭く冷たい気がする。冷たさ&鋭さのダブルコンボにさしもの俺もたじたじである。 むしろ物理的に痛い…っていうかホントに何か刺さってるし!?粉原!こんな事で能力使ってんじゃねぇ! 「痛い痛い!冗談だって!そんな目で見るなよ二人とも!…ってか、粉原は何でそこまで怒ってんだ!?」 気になった事は質問してみるに限る。前々から粉原と瞳ちゃんが二人でいる所を目撃している人が多かったし この堅物かつ、仲間思いとは言いがたいようなこの男も瞳ちゃんの事は憎からず思っているのかも知れない。 「お、怒ってなんかねぇよ!妙な言いがかりをつけるなっての!」 何とも分かり易い反応というか何というか。 普段の無表情は見る影も無く崩れ、冷や汗を流しながら否定する姿は何とも微笑ましい。 何だか、粉原ってただのツンデレな気がしてきたのは俺だけだろうか。 樹堅を横目に見ると頷いている。同じ事を思っていたようだ。 「………………………」スタスタ と、そんな下らない話と思考を続けていると不意に渦中の瞳ちゃんがこちらへ歩いてくるのが目に入った。 今日も今日とて何時もの制服風ファッションに身を包み、四方っちの趣味だというネクタイを締めている。 少し前より伸びたままになっている灰色の髪を揺らしながらこちらへとゆっくり歩いてくる様子はやはり今日も愛らしい。 良く見ると手にはトレイを持っているようだが、何をしに来たんだろう? 「おや?どうしたの、瞳ちゃん」 気になった事はすぐさま聞くに限るというモットーに従い、質問を投げかけた後に後悔。 質問したはいいけど四方っちが居ないと通訳が出来なかった… ともかく口に出してしまったからには仕方ないと、返ってくるリアクションをどうにか正しく察しようと構える。 「………………………(試作品。出来たから…)」 問いかけを受け瞳ちゃんは手に持ったトレイを掲げる。その中身を除き見ると完成品らしきチョコが並んでいた。 その意図を推察しようとしていると、樹堅が察したように声を上げる。 「ん…?もしかして味見か?」 「………………………」コクコク 樹堅の推測を受けて瞳ちゃんは小さく二回頷く。 どうやら樹堅の言っている事は確からしい。味見役を頼まれるというのは実にありがたい限りですぐさまにでも頂きたいところだけど… ふと隣から視線を感じて出しかけた手を止める。 隣を見るとなにやら粉原が渋い顔をしていたからだ。相変わらず良く分からん奴だが… 「そんなもん、俺たちに持ってこなくたってあいつらに食わせれば…」 そんな粉原の発言とどこか恥ずかしそうな表情で何となく理解できた。 あぁ、なるほど。なんとなく、チョコを貰うというのがむず痒かったと見える。 いくら素っ気無い言葉を投げかけても、そんな様子では悪い印象を受けようが無い。どうみても照れ隠しだ。 「………………………」ジー そんな言葉を受けた瞳ちゃんは粉原を見つめている。相も変わらず表情に乏しいジト目だが、この場合は何となく意味が読み取れる。 この目は恐らく、つっけんどんな態度をとる粉原を軽く非難している目だろう。 割と普段からジト目気味の瞳ちゃんだが、普段以上にジトッとしたこの目はこれはこれでそそる物がある。 …我ながら小学生位の女の子に対する評価としてはどうかと思うけれども。 「ぐっ…分かった。分かったからそんな目で見るな」 青く澄んだその瞳に見つめられ、慌てて粉原が目を逸らす。 どうでもいいが瞳ちゃんの瞳に見つめられる、っていうのは我ながら面白い気がした。あ、そうでもない? 何にせよその視線の意味を正しく察したのか、折れてチョコを手に取る粉原。しかし、この様子を見ていると… 口では何だかんだと言いつつも、小さな子どもには甘い近所の兄ちゃんオーラに溢れている。 「おやぁ、これは…」 「ふっ…。流石の粉原も子どもには甘い様だな」 二人揃ってニヤニヤと笑みを浮かべる。鏡を見ればさぞかし気持ち悪い顔をした二人が映っているだろう。 こういう時、樹堅とは気が合う。普段そっけない粉原を弄れるチャンスと思いお互い数々の修羅場を抜けてきた相棒の様な心持ちで 粉原を弄り回していると、ついに我慢の限界が来たのか粉原が怒鳴り声を上げる。 「ニヤニヤしてんじゃねぇ!馬鹿にしてんのか!」 目を吊り上げ怒鳴り散らす姿は普段の彼から考えれば恐ろしい物なのかもしれないが、 今に限っては全く持って恐くも何とも無い。これはこちらの心境の差なのだろうか? 「べっつにー。普段ピリピリしてる粉原さんがぁ~、妙に優しいからさぁ~」 「こちらとしては色々と想像してみてしまうわけさ」 散々粉原イジリを堪能した後、満足のいった俺達はお互いに親指をサムズアップする。樹堅、グッジョブ! そんなこんなでチームメイトと新たな友情を築いていた俺達を横目に粉原が呆れたかの様に嘆息する。 「てめぇら…」 最早、怒る気も失せたと言わんばかりですがそんな終わり方では味気ない。 そんな期待を込めて樹堅に視線を送る。流石は同士、全てを分かった顔で粉原へと向かい合う。 樹堅は『俺のターンはまだ終わってないぜ』と言わんばかりの表情でこう付け加えた。 「というか、粉原。俺の能力を忘れてないか?お前の脳内に『罪木 瞳』で検索をかければお前の考えている事などお見通しだ」 樹堅の能力は『知りたいことのキーワードを基に相手の脳内を検索する』という能力だ。 それを用いれば隠し事など不可能である。最も、キーワードを決めなければならないのでそこまで万能ではないけれど。 その補足を受けてその意味を正しく察し、粉原はさぁっと顔を青くする。 樹堅が何を考えていたかは知らないが見られて困る事を考えていたのは確実なようだ。 「なっ!てめぇ、何を見やがった!」 顔を青くしたと思えば、次は顔を真っ赤にして怒鳴る粉原。色々と忙しい奴だな。 だがそんな粉原に止めを刺さんと眼鏡を光らせ、不適な笑みを浮かべる。 「ふっふっふっ…。そりゃあ、お前、心の中では罪木の事を可愛くて妹のように思っ「ぶっ殺す!」 止めとばかりに粉原の脳内にかけた検索結果を口に出そうとする樹堅だが、最後まで言い切る事は無かった。 粉原はとっさに能力を発動させると生成した赤い剣を樹堅に向け飛ばす。その凶器が眉間に迫るが――― 「入場!助けろ!」「任せとけ!『前線案内』」シュン そうは問屋が卸さないぜ!俺は速やかに樹堅に触れると前方48.27m地点へと転移させる。 路地裏に無造作に置かれた鉄製の看板の裏にピンポイントに転移された樹堅は軽やかに身を隠しやり過ごす。 攻撃が不発に終わった事に対して怒りで身を震わせながら粉原が叫び散らす。 「逃げんなてめぇら!なんでそんな息ぴったりなんだよ!訳わかんねぇよ、お前ら!」 言いながらも転移した先の樹堅へ攻撃を仕掛けているが看板に阻まれうまく当たっていない。 最も、当たったとしても痛いで済む程度に手加減されているのは見てるだけで分かるから止めはしない。 と、まぁそんな風にこちらはこちらで男同士で馬鹿騒ぎをしていた訳だ。 いやはや、こんな組織にいても中々に青春を謳歌できている。他の組織がどうなのかは知らないけど。 「………………………」クスクス そんな様子を眺めながらクスクス笑う瞳ちゃんの横に人影。 その人影も同様に粉原と樹堅の様子を見て面白がっているようだった。 「くっくっくっ。粉原は相変わらず素直じゃないよね」 とはいえ、こんな時に近づいてきて笑っているような奴は一人しか居ないけど。 その人影はいつもの通りのネコミミパーカーを着込み、備え付けられたポケットに両手を突っ込んでいる。 そのフードの奥にはやはりこれまた猫の耳の様な癖っ毛を仕舞い込んでいるのだろう。 灰色の瞳を何時にも増して爛々と輝かせ騒ぎを見つめるその様子は意外ながらも歳相応の少女らしさを感じさせる。 本人は気付いていない様だけど頬にチョコレートが少し付いている。 何を考えているのか分からないミステリアスさと何だかんだと女の子らしさの両方を兼ね備えた不思議なリーダーである。 という訳で、いつの間にかこちらへ来ていた四方っちが真似の出来ない笑い方で声を上げる。 その声を聞いた粉原は再び顔面蒼白になりながら勢い良く振り返る。 「やっちまった」を表情で描いた様な顔が非常に面白い。 気を取り直したのか表情を無理やり戻し、引き攣った怒り顔で四方っちに詰めより 「お前は何時の間に沸いてきた…!っていうか、どこから聞いてやがった!?」 と食ってかかるが、彼女はまるで意に介さないかの様に身を翻し、笑顔を浮かべながら返答する。 「え、最初からだけど?能力使えば遠くの会話でも聞こえるからね。それで、瞳のチョコはおいしかったかな?」 翻した体を追従する様に黒い髪が揺れる。両手を後ろに組みながら笑いかける姿はとても絵になるが、 そのサディスティックな笑顔は改めた方が良いと思うんだ、女の子として。 ところで、違うところで既に語られた事実かも知れないが風に乗った会話を聞くことが出来るらしい四方っち。 相変わらずの能力の無駄遣いと、無駄に洗練された制御精度に脱帽。 我らがリーダー四方視歩(16)は今や地獄耳を超える猫耳と持て囃されるプライバシーブレイカーである。嘘だけど。 「……………(絶句)」 予断だが粉原は基本的に四方っちの事を苦手としているようで、彼女を前にすると大抵の場合怒るか呆れるかの二択の表情をしている。 どうやらこの独特な性格に対しての対処法が無いらしく、偶に瞳ちゃんに愚痴っているとかいないとか。 瞳ちゃんに愚痴ったらそのまま四方っちに一直線に伝わる事が分かってるんだろうか、あの男。 「くっくっくっ。心配しなくとも、君をロリコンだとかは思っていないよ」 おや、流石に弄り過ぎた思ったのかフォローを入れている様だ。 ここは俺も乗っかってこの場を収めに掛かるのが賢明だろう。このままではむしろこちらにも危害が飛んできそうだし。 「おお、さすが四方っち。フォローも忘れないとは頼れr」 ―――そうは問屋が卸さなかった。というか四方っちが卸さなかった。 再び口を三日月の様に歪めると粉原に近寄り、耳元で囁く様に… 「瞳に良くしてくれている様で何よりだよ、お・に・い・ちゃ・ん?」 あっ…(察し) 「あ゛あ゛あ゛ぁ゛!てめぇら、馬鹿かぁーーー!」 さ、更に煽りにいったぁーーー!? 粉原は顔どころか全身を真っ赤にして怒っている様だ。…いやむしろ赤いのは顔や体じゃなくて能力じゃねーかこれ!? 余談だが粉原の能力は「赤色念動(レッドキネシス)」と言って、念動力に物理的な硬さを持たせて自由に操る力だ。 何故かは知らないが、発動した念動力には赤い色が付いているという特徴がある。 なぜこんな説明を今しているかといえば怒りのあまりに操る念動力が体をオーラのように纏っていて まるで見た目はスーパー○イヤ人の様なサムシングと化しており一見すると何の能力なのか分からないから…ってこっち見た! ともかく、早急に退避しなければ…はっ!足が動かない!? 良く見ると足元には赤い念動力が纏わり付いていた。怒っている割に冷静だな、おい! 「良いから死ねっ!」 万事休すとはこの事か。何らかの救いが無い物かと祈りつつ、諦めと期待のブレンドな気分で目を閉じ――― 「ぎゃぁぁぁー!?」「あべしぶっ!?」 ―――やっぱり現実は非情だった!錐揉みに吹っ飛びながら、視界の端に同じ様に飛ばされる樹堅の姿を捉える。 あんなに離れててもやはり逃げられなかったか…南無三。 「おっと、危ない危ない」「……………」 薄れていく意識の中、ちゃっかりと瞳ちゃんを抱えて避けている四方っちが見えた… 自分で煽っておいて俺達を見捨てたとか、最初からこうなるのわかっててからかっただろとか。 「くくっ、和三盆程甘いね。私を捉えたいなら本気で危害を加えるくらいの気概で来ないと」 そしてこの期に及んでまだ煽りますか。むしろそこまでやって笑えるアンタの精神が理解しがたいぜ… と、そこまで考えた所で俺の意識は消失した。 とある猫娘達の日常 5話 修復者達のとあるバレンタイン***** ~~~side 焔~~~ 話は遡って昨日の昼の事。 私、富士見焔は重大な事実に気が付いたの。今日の日付を確認し皆の前で発言するの! だんっ!っと机に勢い良く手を叩きつけながら本日の目的を声に出す。 「皆、チョコを作るの!」 三言で発言終了。でもこれだけで十分意味が伝わると思っての結果だったんだけど… 何だかあんまりよろしくない反応なの。少し遅れて香ちゃんが金色のショートヘアを揺らしながら小首を傾げ 「……………ええっと」 と苦笑いを浮かべている。素早く反応してリアクションしてくれるのは良いの。 でも出来ればもうちょっと気の利いたコメントをして欲しかったの。 続けて発言したのは、腰まで届く様な可憐な茶髪を揺らし小首を傾げるのかと思えば 首を曲げこちらを睨みつけるかのような目線でこちらを見ている芙由子さんなの。 「……………は?」 …胡乱っていうのが良く似合う目つきというか、女の子としてどうなのそれ…。 ともかく芙由子さんの反応は、言ってる事は分かるけど何故そんな事を言っているのか分からない、という感じなの。 分かりやすく言うと「何いってんだコイツ」状態。幾らなんでも私の扱いが悪いってレベルじゃないの! 気を取り直し視線を滑らせると、視歩ちゃんの膝の上といういつもの定位置に座っている瞳ちゃんが目に入る。 正直な話、そのポジションは羨ましいけど瞳ちゃんなら仕方が無いの。血の涙を流して耐えるの。 「……………………」 そんなうらやまけしからん瞳ちゃんはと言えば、いつも通りのジトッとした目をこちらに向けて首を傾げている。 眉の角度の変化を見る限り、その表情は『疑問』だろうか?むむむ。私にはまだ瞳ちゃん語の翻訳は無理そうなの… どこかに指南書でも売ってないかなぁ、視歩ちゃんに今度それとなく執筆をお願いするとして。 「へぇ、チョコか。焔も色気づく歳になったって事かい?」 最後に、皆のリアクションを見届けた後に視歩ちゃんが声をあげるの。 ちゃんとした質問で返してくれるのは流石だけどやっぱりその発言は気が利いてないよ!? 色気づいたとか言うとまるで私が男の子にチョコをあげようとしてるみたいなの!? これじゃあ周りの皆に誤解されてちゃうの!早く否定しないと~! 「ち、違うの!私のは視歩ちゃんに渡すんだから!」 慌てて否定した後、ゆっくりと周りの皆の顔を眺めると… (いや、そんなの分かってるから) という言外の意思をビンビンと感じるの。 私がサトリなのか皆がサトラレなのかそれとも他の何かなのか。 「そ、そうだったの。皆にはそんな事言わなくても分かってるよね!私の愛はストレートなの!」 えっへんと胸を張る。直前のやり取りなんか忘れたの。この図々しくも愛嬌のある振る舞いが私のチャームポイント! 絶賛自己PR&自画自賛とかいう最悪なコラボレーションだけどやはりこれも真スルー。 「っていうか、何で急にそんな事言い出したのよ?」 色んな思考を勝手に頭の中で飛び交わせて一人遊びしていた私を見かねたのか芙由子さんんが疑問を投げかけてくる。 フォローだったであろうその言葉は有難いけどやはり目つきが胡乱…。そんなに私が嫌いなの!? 「明日の日付を見てみるの!」 そう言って鞄からカレンダーを取り出し、芙由子さんに突きつける。 このカレンダーは私の必需品だ。一年の中に溢れてる記念日を忘れてしまわないように、一日一日を楽しむために。 まぁ、それだけじゃなくて理由は色々あるけどね。 目の前に突きつけられたカレンダーに対して、いや近過ぎて逆に見えないからと言いつつ少し身を引いた目を凝らしている。 一日の終わりにその日の日付にチェックを付けているので今日が何日かは一目瞭然だ。 芙由子さんもそのチェックを頼りにカレンダーの日付を目で追っていき、ある地点で動きを止める。 「二月十四日…。あぁ、なるほど」 合点がいった様に頷く芙由子さん。もちろんその日付には大きくハートマークを書き込んでいる。 なぜなら明日は女の子にとって大事な日!期待を込めた目線で芙由子さんを見つめ返す。 さぁ、明日が何の日なのかその口で答えるの! 「聖バレンティヌスが処刑された日ね」 そこなの!?そりゃあ確かにバレンタインデーの由来として有力な説だって事はもちろん知ってるけども。 だからってそこでそれを言われると最早どう反論して良いのやら。芙由子さんのボケなのか本気なのか微妙だし、 下手に突っ込むと数倍の報復を受けかねないし、かといって気の利いた返答を用意できている訳でもなくて、たじたじ… 何も言葉を発せない私を見る芙由子さんの目が段々鋭くなってくる。 まずいの、このままじゃあ痛い展開の予感…! 「そっ、そういえば、明日はバレンタインでしたね~…?」 そんな絶体絶命の状況に助け舟を出してくれるなんて、やっぱり香ちゃん出来る子! 助かったと言わんばかりに香ちゃんの発言に便乗する事にする。 「そ、そうだよ!明日はバレンタインだよ!」 たどたどしくなってしまったのはご愛嬌という事で…。 香ちゃんはこちらを見ながら微笑んでいる。相変わらず年下とは思えない包容力のある笑顔なの。 ともかく、いつの間にか表情を戻した芙由子さんがふぅ、と息をつきながら思い出したかのように呟く。 「そういえばそんな日だったわね…」 っていうかホントにバレンタインデーって事を忘れてたんだろうか? そう思うと浮かんでくる感情は怒りや悲しみと言うよりは哀れみに近い感情だった。 男性恐怖症の芙由子さんには縁の無いイベントだったんだろうなぁ… なんて、聞かれれば間違いなくお仕置き物な事を思いつつもさっきの仕返しを目論んで口を開いた 「そういえば、って…。幾らなんでも芙由子さん女捨て過ぎなの…」 他の記念日はともかく、バレンタインを忘れるのは女としてどうかと思うの。 やった!このセリフは我ながら上出来なの!流石の芙由子さんもこれにはたじたじの筈… そんな期待を込めながら芙由子さんの顔を覗き込み、その瞬間思考がフリーズする。 「何かいった?」ニコッ ―――強者は大抵の場合、常に笑顔である。そんな言葉を思い出した。 「…ごめんなさいなの」 私は何も言ってない。言ってないの。命が惜しいから言ってないのー。 脳裏にこの前のお仕置きが過ぎる。あんな目に遭うのはもう二度とごめんなの。 「あ、あはは…。実際、私も忘れてましたし…」 とっさにフォローを入れてくれる香ちゃんはやっぱり良い子なの! 香ちゃんは最近入ったばかりのメンバーだけれど、その優しくて一生懸命な性格のおかげですぐにメンバーにも受け入れられていた。 私は受け入れられるのに随分時間が掛かったし、ちょっと羨ましいかな~なんてね。 でも仕方がない事ではあるかな。私は元々ここの皆からしたら敵でしか無かったんだし。 そんな事を考えながら顔を見つめ続けていたせいか、いつの間にか香ちゃんが顔に疑問の表情を浮かべている。 私はそれを笑って誤魔化しつつ顔を逸らした。昔の事思い出すと後ろ向きになっちゃって良くないの。気をつけないと~。 「それで?明日はバレンタインだから、皆でチョコを作りたいって訳かい?」 こちらの会話がひと段落ついたのを見計らって視歩ちゃんが本題に入る。 このままだと話が進まないところだったから助かったの。 視歩ちゃんの言うとおり、私はデバッカーの皆にチョコを作ってあげたかったのだ。しかし… 「そうなの!でも、私チョコの作り方分からないから誰かに教えてもらわないと…」 そう私はチョコの作り方を知らないのだ。誰かに教えてもらう必要があるので、皆に助けを求めた次第である。 そもそも私は料理とかした事ないし、お菓子とかもっと無理なの。 でも視歩ちゃんがお菓子作れるのは知ってるし、うまくいけば視歩ちゃんに手取り足取り教えてもらえるかも…うふふ どちらかと言うとそっちの方が真の目的だったり。我ながら策士なの! 「…………………………(この中でお菓子作りが出来るのは…)」 瞳ちゃんが辺りを見渡すような仕草をする。なんか私のほうに意味ありげな視線を送ってきた気がするけど… はっ!?まさか私の完璧な策が読まれてるんじゃあ…。いや、それは無いの。 瞳ちゃんが読めるのは悪い感情だけ。私の純粋な愛なら読まれる心配なんてないの! 瞳ちゃんの目が(いや、欲に塗れまくってるから。ある意味、純粋な欲の塊だよお前)って感じだけど気のせいだよね。 「うん。私と芙由子が適任かな。瞳も作れるだろうけど、人に教えるのはまだ早いだろうし」 やっぱり視歩ちゃんは作れるみたいなの。瞳ちゃんはまだ人に教えられる様な感じでは無いみたいだから自動的に視歩ちゃんが… …あれ?芙由子さんも作れるの?何だかすごく嫌な予感がするんだけど… まさか視歩ちゃん以外に料理できる人がいるなんて!?私の完璧な作戦にまさかの穴があったの! 「ごめんなさい…。私もお菓子作れません…」 「なら、香にも教えてあげないとね」 あれぇ!?いつの間にか香ちゃんが視歩ちゃんのレクチャーを受ける事になってるの!? 「あ、ありがとうございます!」 香ちゃんはと言えば、とても嬉しそうに笑顔を浮かべながら頷いている。 その様子は凄まじくかわいいけど今はそんな事を気にしている場合では無いの! 「あれ、視歩は香に教えるの?だったら…」 あ、あぁ!このままじゃあ嫌な予感が的中しちゃうのぉ! 私も視歩ちゃんに教わる様にしなきゃこんな事言い出した意味がぁ… 「わ、私も視歩ちゃんに教えてもr」 「アンタは、私が教えてあげるわ。視歩と一緒にやらせたらまともにやらなさそうだし」 そ、そんなぁ~!どうにかしてチェンジを…! 「ち、チェンジ「断るわ」 私の訴えは言い切る前に遮られた。現実は非情である。 「あう…あう…」グスッ 神様ぁ…今ばかりは貴方を恨むの…。幾らなんでもこの仕打ちは酷いの! 何故か芙由子さんはこんな感じで私に冷たい。私何も悪い事してないよね?ね? あれ、何だか誰も同意してくれなさそうな気がする…。 しかし、そこは流石の視歩ちゃん。きっちりとフォローを入れてくれたの。 私のほうの近づいてきたと思えば私の頭に手を置いて、優しく撫でながら 「大丈夫、焔が作ったチョコ、私は楽しみにしてるから。頑張ってみてよ」 と微笑みかけてくる。きゅんっ、ってきたの!相変わらず罪作り過ぎてますます惚れ惚れしてくるの~! とはいえこんな性格のせいで恋敵多いけどね!しかも同性ばっかり! でも今はこの至福の瞬間を噛み締めないと…。 頭にやられた手の感覚へ神経を研ぎ澄ます。触れられた所から温もりが広がる。 あぅぅ…。私、生きてきて良かったのぉ…。 そして、すっと手が戻される。名残惜しかったけど、出来るだけ表情に出さないように努力する。 視歩ちゃんはそんな私の微妙な顔を見て、さらに笑みを深くしながら元の位置に戻っていった。 「視歩ちゃぁん…。分かったの!絶対においしいチョコを作って見せるの!」 やっぱり視歩ちゃんは優しいの!ここまでされちゃあ頑張るしかないの! そんな私をどこか微笑ましそうに眺めていた芙由子さんが、不意にかぶりを振って表情を戻すと 腰に手を当て、視歩ちゃんに向き合う。少し躊躇してから口を開いて 「…はぁ。あのねぇ、視歩。あんたがそうやって甘やかすから焔がこうなっちゃったんでしょうが」 と、少しばかりの非難と大目の呆れを込めた声色で糾弾する。 何だかんだと一緒に居る時間も多いから分かるけれど、こんな感じで話す芙由子さんは大抵の場合その相手の身を案じている。 前々から「視歩は他人に甘すぎる」と言った内容の愚痴は聞いていたのでなおさら分かりやすかった。 「え、そうかい?甘やかしてるつもりは無かったんだけど…」 私としては、もっと甘やかしてくれても良いんだけど…芙由子さんは更に呆れの割合を深くした声で 「無自覚かよ…。そろそろ普段の振る舞いを改めた方が良いんじゃない?この女たらし」 と視歩ちゃんの額を人差し指でつつく。 視歩ちゃんはと言えば、額を突かれた事よりも女たらしと言われた事の方が答えているようで顔を顰めている。 どうでも良い話だが、普段余裕をもって物事に接している視歩ちゃんが動揺するときは大抵は芙由子さんか香ちゃんが絡んでいる。 香ちゃんは理由わかり易いけどね。毒舌だし。 それはそうと、視歩ちゃんと芙由子さんは傍目から見てても仲が良い。 何を言うにも遠慮の要らない友人って感じだろうか?そんな関係性のせいか悪口を言い合ってる姿が多いけれどそこに嫌な感じは全くしない。 聞く話によれば芙由子さんと視歩ちゃんは同じ施設に居たらしく、昔からお互いの顔を知っていたとか。 要するに、幼馴染。俗に言えば朝に部屋まで起こしに来てくれる人、みたいな?それは冗談として。 「うぐっ!…女にむかって女たらしはないだろう、いくらなんでも」 つつかれた額を手で摩りながら非難を浴びせる。 この前聞いた親父ギャグ発言と言い、今回と言い視歩ちゃんの怒るラインは何だか微妙な所にあるような気がする。 「じゃあ聞くけど、あんた男より女に言い寄られるほうが多いでしょうが」 額にやられた手も意に介さず、再び額をトントンと突きながら言葉を重ねてゆく。 そんな彼女の追及に反論が無いらしく、困ったような顔を浮かべて目線を逸らしている。 「それは…まぁ、否定はしないけどさ…」 頬をぽりぽりと掻きながらすっと目を伏せる。 確かに、視歩ちゃんが男の子に言い寄られてる姿はあまり見ない。 顔自体はかわいいからナンパされてる事はあるんだけど、中身を知ってる人にはモテないの。 「あ、そうだ。良い事考えた」 ふと、芙由子さんが額をつついていた手を止め、ニヤリと笑う。 視歩ちゃんの全身を舐め回すような視線で見つめると、ふん。やっぱりね、と呟く。 何となく言いたい事は分かったの。今見てたのは視歩ちゃんの服を見てたんだね。 いっつも似たようなパーカー着てるし、女の子らしい格好すればきっと似合うはずなの!って事だよね、きっと。 「なにその笑顔。嫌な予感しかしないんだけど」 いつの間にか私も似たような笑みを浮かべていたらしく、視歩ちゃんは私と芙由子さんの顔を見比べて苦笑いを浮かべる。 額に冷や汗が浮かんでいるところを見ると、こちらの意図はだいたい伝わっているようだ。 更に追い討ちをかける様に芙由子さんが、満面の笑みを浮かべながら視歩ちゃんの手を取り 「視歩、今度一緒に買い物に行きましょう?あんたに似合う可愛い服を見繕ってあげるから」 と、視歩ちゃんを誘う。この二人は普段から一緒に買い物などに出かけているようだけど、 いつも以上ににこやかな笑顔を浮かべながら詰め寄ってくる芙由子さんの様子に、いつものお誘いとは違う事を察した様で 軽く身を引きながら露骨に嫌な顔をしている。 「えぇ…。ただ私を着せ替え人形にしたいだけだろう、それ?」 半眼になりながら芙由子さんをにらめ付けて、非難の混じった問いかけを送るが、それをまるで意に介さない様子で 「ええ。そうよ」 笑顔のまま言い切る芙由子さん。すごく楽しんでるなぁ、この人。 そんな様子に軽く面食らった様に、なおかつ多分の呆れを込めた表情で 「ノータイムで言い切ったよこの子」 と溜息混じりに突っ込みを入れている。傍から見てればホントに言い感じのコンビだよね、この二人。 こういう二人の姿は見てて微笑ましくなってくる。芙由子さんは恐いけれど良い人だから、これからも彼女の支えになっていて欲しい。 と、そこで前に香ちゃんから聞かれたことを思い出す。 その時の質問の内容は「視歩ちゃんが他の人と仲良くしてるのを見てどう思うか」という物だった。 香ちゃんは視歩ちゃんが私や他の人と仲良くしてるのを見ると、モヤモヤした気分になってしまうのだと言っていた。 その気持ちは分かる。でも、知識としての『嫉妬』が分かるというだけで私自身にはその感情は無い。 どうにも私は他人に対しての嫉妬の感情が欠落しているのだとか。子どもの頃に散々説明されたっけ。 私の願いは視歩ちゃんの一番になる事であって唯一になる事ではないのだ。 だから、むしろ私は誰かが常に彼女の隣にいる事を望もう。歪んだ感情と言われても構わないから。 すこし柄にも無い事を考え過ぎたかな?気を取り直さなくちゃ! 「……………………(野豚ならぬ野良猫をプロデュース…これは売れる予感…!)」グッ 「野良猫言うな。わかったわかった、着せ替え人形にでも何でもなってあげるよ」 意識を目の前の会話に引き戻すと、視歩ちゃんが瞳ちゃんに突っ込みを入れてるところだった。 瞳ちゃんが何を言ったのかは分からないけど、あのしてやったりな表情を見るに何か面白い事を言ってからかったのだろう。 あいかわらず瞳ちゃんは表情だけで場を和ませる天才なの。この組織のマスコットだよね! 「やった!瞳ちゃん、貴女も当日連れて行くから準備しといてね」 いっている傍から芙由子さんも瞳ちゃんにお誘いをかけているようだ。 この前の事(第一話参照)があってから、芙由子さんも瞳ちゃんを可愛がるようになっていた。 何だか、日を追うごとに虜を増やしていってる気がするんだけど…。瞳ちゃん、恐ろしい子…! 「……………………」コクコク そんな瞳ちゃんは、芙由子さんの誘いに笑顔で頷いている。そんな笑顔を向けられた芙由子さんが 「ぐふっ…」とか言いながら胸を押さえてのけぞっているけど、仕方がないの。私に向けられた物では無いのにきゅんときてしまったの。 「瞳ちゃん、かわいいの~…。はっ!?でもひとまず今はチョコの話なの!」 危ない危ない。危うく忘れてしまうところだったの。瞳ちゃんの魔性の笑顔には気をつけないと… 私の言葉を聞いて、皆が「ああ、そんな話してたね」と思い出したような反応を示す。 このままじゃあ流されてしまうところだったの。 そして、芙由子さんが腕を組みなおしながら 「まぁ、良いんじゃない?チョコくらいなら、そんなに手間もかからないし…」 と私の意見に賛同してくれる。料理も得意な芙由子さんの言う事だから、きっと間違いはないだろうけど… チョコ作るのって手間のかかる作業だって思っていたけど、そうじゃないんだ。手間は掛からない、か。 でも、それが本当なら私も頑張れば作れるかなぁ! 「……………………(今日材料を買って、明日作って渡せば良いと思う)」 瞳ちゃんが視歩ちゃんに何かを提案しているようだ。それに頷いて 「そうだね。渡す相手を考えれば、作ったのをそのまま渡せば良いだろうさ」 と言った。どうやら瞳ちゃんは、作る日程について提案してくれたらしい。 視歩ちゃんに言ってる内容からして、今から買いに行って明日作ったのをそのまま渡せば良い、ってことだろう。 「あれ?誰にあげるか決めてるんですか?」 話がとんとんと進んでいる事を疑問に思ったのか、香ちゃんがそんな質問を投げかける。 それに、香ちゃんからすればもう一つ理由があるかも。 基本優しい彼女だけど、チョコをあげようとは思わない人が少なくとも一人思いつくし その事を考えての質問かもしれない。 その質問に、何を当たり前のことを、と言わんばかりに視歩ちゃんが笑いながら答える。 「デバッカーのメンバーくらいには作ってやるべきだろう?義理チョコでも男連中に作ってあげようって事」 それは賛成なの。デバッカーの仲間にはお世話になってるし、 チョコに感謝の気持ちを込めて、私も皆にプレゼントしたいの! でも浮かない顔をしている人が一人。言うまでも無く香ちゃんだ。 やっぱりあの人に渡すのを躊躇しているのだろうか? 「こ、粉原さんにもあげるんですか?私、あんまりあの人好きじゃないんですけど…」 案の定だった。相変わらずだなぁ、香ちゃん。この話の時ばかりは少し別人に見えてくるほどに その表情には黒い物が混じっている。 粉原さんに対しては無意識ではなく、意識的に毒を吐くみたいだし、とことん嫌いなんだろうなぁ。 「ふむ…。ま、馬が合わないのは仕方ないかな、お互いの性格的に」 改めて説明すると、香ちゃんは粉原さんが嫌いみたいなの。主に考え方の違いが大きいの。 確かにちょっと無愛想だし、冷たいかも知れないけどあの人も悪い人じゃ無いんだけどなぁ。 特に瞳ちゃんを相手にしてる時とかは、割と優しいように見えるの。 「……………………(別に、義理なのだから愛を込める必要は無い)」 逆に粉原さんにも懐いている様子の瞳ちゃんだが、香ちゃんの言葉は特に気にしていない模様。 この前、粉原さんの事をお兄ちゃんと呼んでみようとしてたらしい事を視歩ちゃんから聞いて 実行の際には是非呼んで欲しいと頼み込んでおいた。その時が楽しみである。 「渡すのだって、一人一人渡してたら手間だし、焔にまとめて渡させればいいでしょ」 私はそれでも構わないの。そっちの方が手っ取り早いし。 でもそう考えると、結構たくさんのチョコが必要そうなの。たくさん買い込まないとね。 「それなら、まぁ…」 しぶしぶ、といった具合で納得する香ちゃん。その内仲良くなってくれれば良いけど、ちょっと難しそうなの。 ともかく、日が暮れない内に買い物に出発しないと! 「決まったのなら早く買いに行くの!」 立ち上がって右手で視歩ちゃんを、左手で芙由子さんを掴んで催促する。 腕を引かれた二人はそれでも微かに笑いながら 「はいはい。それじゃあ、買いに行こうか」 「仕方ないわねぇ…。ま、付き合ってあげるわ」 と、言ってくれる。視歩ちゃんはもちろん大好きだけど、芙由子さんのこともやっぱり大好きなの! 二人とも、敵だった私にここまでしてくれる、とても素敵な人。もちろん二人以外の皆も。 昔、他人に嫉妬しないお前はおかしい。そんな風に言われた事があった。 その時はとても悲しかったけど、今はそうは思わない。 私が他人に嫉妬しない理由は今は分かりきってるの。だって私は――― だって私は、誰の人生も羨ましくないの。今が、すっごく幸せだから! だから私に嫉妬の感情はいらないの。その分、人を人一倍愛せればそれが一番なの。 ~~~side 粉原~~~ 時は戻って――― 「という事があったのさ。それで、急にチョコを作ることになったって訳」 どうしてこうなった、という入場のセリフに対して掻い摘んだ説明を終えた四方が肩を竦めながら言う。 登場人物の物真似を交えた四方の説明は非常に分かりやすかったが、富士見のテンションを真似る四方は酷くシュールだった。 「へー。富士見がねぇ…。まぁ、そういうイベント好きそうだけど」 四方から話を聞いた入場が納得したかの様に声をあげる。 その様子を低い視線から眺めていたが、なんだか無性に空しくなってきたので体を起こす。 「……………………(すごく、張り切ってた)」 瞳が倒れこんだ俺を覗き込むように見ていたが、体を起こした俺の頭を避けながら入場へ視線を向ける。 何らかの意図を表しているのだろうがやはり何が言いたいのか分からない。 ともかく、地面と親交を深める羽目になっている俺をスルーしつつ話を続けるこいつらに苦言を呈さなければ…。 「げふっ…。くっそ、平然としやがって」 精々忌々しく言い放ったつもりだったが苦しげになってしまったのはご愛嬌。 というか人を痛めつけておいてその事に触れないのは酷くないか、こいつら。 なぜ俺がこんな所で転がっていたかと言うと… 怒りに任せて入場と樹堅を伸した後に、残る四方をもとっちめようと挑んだ俺だったが、 結局、激しい戦闘の末に返り討ちに遭い今に至る。 忌々しげな視線を送ると、薄く微笑みながら 「流石にまだ一対一じゃ負けてあげられないな。こっちにもリーダーとしての矜持があるし」 そんな事を言いながら、クツクツと真似の出来ない笑い声をあげる。 こうしていると何処にでもいそうな女子高生にしか見えないが、むしろそのせいで負けたという事実が重く感じる。 ただでさえこんな華奢な女に負ける時点で屈辱なのに、なによりも… 「ちっ。ったく、分かっていた事ではあるけど能力じゃなくて肉弾戦で負けると最悪の気分だな…」 そう。こんな気分なのは能力の優劣で負けたからでは無く、肉弾戦を含めた戦闘で負けたからである。 こいつを唯の女だと見るのは愚行だと分かってはいるが、結構へこむ物だ。 「くっくっくっ。流石に年季が違うさ。私が何時から格闘訓練してきたと思ってる?」 経験の差、か。これでもコイツは俺より年上なんだよな…。 最も、高校生が主な構成員の中ではコイツが年長者と言うわけでは無いが。 というか、中学生なのって俺と江向だけだったな。ちっ、早く大人になりたいもんだ。 「前から思っていたが、粉原の剣技と四方の戦い方には共通点を感じるな」 俺達の戦いを見ていた樹堅の発言に興味を惹かれる。 確かに俺の戦い方と四方の戦い方には共通点が多い。その理由もある程度予想は付いているが… 「それはそうだろうさ。私がアドバイスした事をしっかりと活かしてくれている様だしね」 だよな。こいつは時々俺の鍛錬に場に現れては言葉をぽつぽつと落としていく。 その言葉は気に食わんが的確で、何度も参考にさせてもらっている。…不本意だがな。 「うん?四方っち、剣なんか使わないだろうに」 最もな疑問だ。それは俺も常々気になっていたが、直接聞いた事は無かった。 「まぁ、粉原と似た能力の奴といつも戦ってるしね。あいつの戦い方を少し教えただけさ」 そう言われて脳裏を過ぎるのは赤い剣閃と、狂気じみた目をした女の姿。 直接手を合わせた事は無いが、傍から見るだけでも印象に残っていたあの女。 「『甲蟲部隊』のあの女か…。直接戦った事はねぇが、あいつそんなにヤベェのか?」 「連中とかち合う度に戦って、それでも未だに一度も決着が付いてないんだろ?」 それを聞いてやはりかと思う。本気の殺し合いでは無いのだろうがそれでもこの化物と互角なのは恐ろしい話だ。 四方と奴の関係が、一言で表す事が出来ない程度に複雑である事は知っている。 それ故に少しばかり複雑な気分だ。甲蟲部隊との戦闘の度に要注意人物である血晶赤を確実に抑えている四方の働きに文句は無い。 それに加え、ピンチに陥ったメンバーの救援もこなしているのだから大した物だ。 だが、それならばさっさと血晶赤を仲間に引き入れれば良いと思ってしまうのは悪い事だろうか。 俺から見ている限り、四方自信が望めばあの女はこちら側に付きそうにも思えるのだ。 「……………………(かれこれ数年の付き合い)」 「あいつも能力で作った剣を使って戦う時があるからね。その時のを参考に、と思ってさ」 身を以って受けた技だけあってか印象が強いんだよ、と笑う。 くつくつと喉を鳴らす笑い方は相変わらず真似が出来ない。 「悔しいが、的確なアドバイスだったさ。お前に教わるのは癪だが、強くなる為なら我慢してやる」 これは本心だ。四方のアドバイスは確かに的確で、それを取り入れた結果は非常に良いものとなった。 最も、剣技に慣れている筈の俺ですら一瞬理解できない様な高等技術ではあったのだが。 「くっくっくっ。そういう事なら遠慮なく鍛えてあげるさ」 だがひとまずはこの化物を打倒することが目標だ。 コイツを乗り越えて初めて俺は仮初の満足を手に入れることができる。その為にこれからも俺はコイツへ挑み続けるのだ。 …実のところを言うと、ただ単に俺はこいつの隣に立ちたいのだ。率いられるのではなく、並び立つ。 人を頼ろうとしないこの化物じみた少女に真の意味で『仲間』だと認められなくては俺のプライドが許さないのだ。 こんなこと、誰にも話せやしないがな。 「……………………(大丈夫?)」ヨシヨシ 「んなっ!?べ、別に心配されるような怪我はしてねぇよ…。ほら、あっち行け!」シッシッ 気付くと瞳がこちらへ近寄って頭を撫でていた。 どうやら四方との戦いに負けた俺を心配しているようだが余計なお世話だ。 「……………………」クスクス ぐっ…。そんな風に笑われると冷たく当たり難いだろうが…! 「やっぱり瞳ちゃん相手の時だけ態度違うよなぁ?」ボソッ 「だから言ってるだろ?粉原は罪木の事を妹の様に思ってるって」ボソッ 「粉原さえ籠絡するとは…!流石は瞳ちゃん、デバッカーの潤滑油は伊達じゃないな…」 「瞳にそんな異名が付いていたのか…」 少し気を抜くとえらく勝手な事を言ってやがるなこいつら。 「お前ら…。別にそんな風に思っちゃいねぇよ。子どもの相手は慣れていないだけだ」 「……………………(お兄ちゃんの様なものです)」 瞳の目が何となく碌でもない事を考えているように見える。 と思っていると、その隣に立っている四方も同じ目をしている。嫌な予感しかしねぇぞ、これ… 「何なら本当にお兄ちゃんになってみるかい?」 「あん?どういう意味だよ?」 予想通りよく分からない事を言い出した四方を怪訝な目で見つめ返すと四方は説明を始めた。 「施設から逃げ出した時に、戸籍が無いと不便だからって話でさ。色々コネを使って個人情報を作ったんだけど…」 確か吉永と同じ研究施設に居たんだったか。 コイツが脱走した際の被害が原因で研究は凍結、他の被験者も野に放たれる事になったと聞いているが… 「……………………(その際に、私は視歩の妹として登録された)」 「そんな訳で、表向きは私と瞳は姉妹って事になってるのさ」 「ほぉ。それは知らなかったな。お前ら姉妹だったのか…」 その説明に俺は素直に感心した。姉妹の様だと思う事は幾度と無くあったが、実際に姉妹だったとは。 案外世の中は見たままな事が多いのだな、と心の中で頷いていると樹堅が何かに気付いたように呟く。 「…うん?それで、本当に姉妹になるって言うのはつまり…」 「私と夫婦なれば、瞳は本当の意味で妹になるよねぇ…?」 そりゃあ、そうすれば義妹にはなるんだろうが…は?今なんていったこいつ。 お、落ち着け。確か、夫婦がなんとかって………ぶっ!ふ、夫婦だと!? 「なぁっ!?な、何言ってやがんだテメェ!!正気か!?」 「まずはお友達から始めてみるかい?粉原君?」ニヤニヤ そのニヤニヤとした顔を見ていると怒りよりも呆れが浮かんできた。 ほんとにもう、なんというか… 「もう勘弁してくれ…」 としか言い様が無い。本気で言ってるわけでは無いのがちゃんと分かるのが救いか。 そこすら判断がつかなくなれば俺はとてつもない恥をかく事になりそうだ。 「くっくっくっ。君の反応はいちいち面白いな」 …コイツいつかぶっ飛ばす。絶対に! 「楽しそうだなぁ…。二人とも何だかんだと仲が良いよな」 ほうっ、と息を吐きながら言葉を落とす入場が目に入る。 女子組みのチョコを待ちくたびれたのかすこし眠そうだ。 「四方と粉原の関係性がいまいち良く分からんのだがな…」 樹堅もいまいち俺と四方のやり取りがしっくり来ていないようだ。 無理も無いとは思う。俺は四方が苦手だが、その気持ちとは裏腹にこいつは俺にやたらと構う。 「俺が入るより先に居たしなぁ。その頃から既にこんな感じだぜ?この二人」 最近ではもう諦めの境地に達しつつあるので、逃げもせずに話しに応じているわけだが…。 どうやらそれが仲の良いように見えるらしい。迷惑な話だ、全く。 「……………………(彼はかなり初期の頃から居るメンバー)」 「うん。粉原は瞳を除けば一番最初に裏側に来たメンバーだからね」 そういえばそうだったか。初めてコイツに会ったときは良く分からない奴だと思った。 いや、今でも底がいまいち量れない奴であるのは確かなのだが。 「俺が入る前に居たメンバーは…朱点だけだったか?」 とはいえ、奴は表側のメンバーだからカウントに入れるていいのかは微妙だが。 「うえっ!?あいつそんな前から居るメンバーなのか?」 入場が驚いた様に声をあげる。こいつは朱点と仲が良かったはずだし、純粋に意外だったのかもしれない。 当初は今の様に施設を強襲するような活動は行ってなかったな。 戦いたくて仕方なかった俺を朱点が抑えていた記憶が蘇る。 「一番最初に誘ったメンバーだからね。私達の活動を考えると、どうやっても朱点のような男が最初に必要だったんだ」 確かに奴の見た目によらない管理能力や、子どもに好かれるところは俺たちの活動には必要不可欠だしな。 最初に誘ったのも頷ける、が。あんまり朱点と四方の組み合わせってのも想像できないよな。 「最初は…四方と罪木だけだったんだよな…」 樹堅の言葉でふと気付く。たしかに、俺や朱点が入る前はこいつら二人だけだったんだよな… その頃の二人は今ではあまり想像できない。こいつらの周りにはいつだって人がいるイメージが強いからな。 「ああ。その頃はこんな組織を作る事になるとは思ってなかったけどね」 「……………………(最初に比べれば随分と賑やかになった)」 んー、と口の下に人差し指をあてて何かを考えている。 不意に見せられた女の子らしい仕草に目を奪われる。こいつも女子なんだよな… …はっ!?俺は何を考えているんだっ!?さっきの夫婦がどうとか言う話に意識を持っていかれたな、KOOLになれ! 「そろそろ追加メンバーが欲しい頃合かな?」 そしてこいつはこいつでまた聞き逃せない事を…。 唯でさえ濃い面子なのに、こいつに勧誘をさせたらますますカオスになりかねん。 「おいおい。これ以上変な奴増やされたら堪らねぇぞ」 「変な奴かどうかはともかく、どんなメンバー増やす気なんだ?」 割と気になっていた事を入場が代わりに聞いてくれた。 新しいメンバーが入るにしたって先にどんな奴か聞いておけばダメージも少ない。 「………メイドかな」 「「「「…………は?」」」」 前言撤回。先に聞いた方がダメージでかかったわ、これ。 よりによってメイドって…。この組織を何だと思っているんだこいつは。 「おいおい。繚乱の子でも拉致してくる気か?」 メイドといえば繚乱女学院が思い浮かぶ。 まさかこいつ、既に誰かに当たりをつけて拉致ってくる算段を立てているんじゃ… 「くくっ。冗談だよ、今はね」 ただ、そんな予感がしてるんだよ、と笑う。 冗談じゃないぞ、こいつの予感って言葉は予知と言い換えても良いほどの精度を誇るというのに。 「………予感、ねぇ…」 不安にしかならない発言だった。 一ヶ月後にはこの場にメイドが佇んでいる、そんな幻視をしてから頭を振って妄想を取り払う。 「…お。あっちの料理組も終わったみたいだな」 樹堅が視線を台所に向けて呟いた。 同調すると向こうから手にトレイを乗せた女子組が来ているのが見えた。 「思ったよりも時間掛かったみたいだね。…芙由子だけに任せたのは酷だったかな?」 心配そうな顔で覗き込んできる。 肝心の吉永は憔悴した顔で近づいてくると、四方の頭に軽くチョップを食らわせながら 「ほんっとにその通りよ。こうなるの分かってて私に任せる辺り性根が腐ってるわ、あんた!」 と吐き捨てる。本気で怒ってる訳では無いのは見てれば分かる。 富士見の世話をするのだって嫌いでは無いのだろうな、こいつは。 「別に確信があった訳じゃないよ。…嫌な予感がしたのは確かだけど」 「嫌な予感がしたなら口に出しなさいよ。割とマジで」 同意だ。良く当たる勘なら事前に知らせておいて欲しい。 そうすりゃもうちょっとうまく立ち回れるっていうのに。 「……………………(秘密主義は基本ですから)」 そんなに秘密にしているつもりも無いんだけどねぇ、と言うがそんな訳あるか。 吉永の更に後ろのほうから富士見がにこにこと歩いてくる。 「色々あったけど、なんとか完成したの!」 元気良く、びしっと腕を上げながら声を上げる。 そんな能天気な様子を、隣に居た吉永が睨みつける。 「焔ぁ…あんた後で覚えときなさいよ…?」バリバリ 「ひぃ!ごめんなさいなの!」 …女ってあんなに恐い目が出来るんだな。 さしもの俺もさすがに今の目つきとドスの聞いた声には身が震えた。 「四方さんっ!私のも出来ましたっ!」 江向か…。どうも俺はアイツには嫌われてるみたいだから、口は挟まない方が良いだろうな。 確かにあいつの覚悟の足りないところは見ててイライラする事もあるんだが… 「へぇ、うまく出来たかい?」 だからと言って、あんなに嬉しそうに四方に笑いかける江向に水を差すのも空気が読めてないだろう。 それでもなくても今日はお祭りみたいなもんだしな。 「はいっ!四方さんの分もありますから、後で食べてくださいね」 だから、ちょいちょい向けられる敵意の視線も今日はスルーだ。 しっかし、そこまで嫌われることをしたかね?覚えが無い… 「有難く頂くよ。焔と芙由子もうまく出来たかい?」 にこやかに笑いかけながら江向の頭を撫でる四方。 …なんだ、こっちに向けてくる意味深な目線は。うらやましくねぇからな? 「うん!自信作なの!」 服の袖をにわかに焦げさせながら自信満々に言ってのける。 こいつはこいつで変わらんな。仲間になったときからずっとこうだ。 「先に自分の分だけ作ってて良かったわ、ほんと」 最近では吉永とも仲が良いように見える。 何だかんだと世話を焼いているようだが、さて…。 「くっくっくっ、次の機会があるなら対策を考えておくさ」 ま、そこらへんの人間関係は俺の知った事じゃない。 せいぜい四方に頑張ってもらうさ。俺は俺のやりたいようにするとしよう。 ~~~side 焔~~~ 「ふん…。何でチョコ一つ渡されるのにここまで疲れなければいけないんだ、全く」 粉原クンがグチグチ言ってるけど、今更言っても仕方ないの。 というか、実は楽しんでる事なんてバレバレなの。 「一つでは無さそうだけどな。それに、満更でも無い顔してるぜ、粉原」ニヤニヤ 周りの男の子達も良く分かってるの! 粉原クンもいい加減私達に馴染んでくれても良いと思うんだけどなぁ。 「粉原の脳内に検索かけたら、一番楽しみなのはやっぱり罪木のチョ「だからやめろ!!」 樹堅クンが眼鏡を光らせながらニヤリと笑う。 たぶんあれ、能力使ってないのね。わざわざ読まなくても見てれば分かるの。 粉原クンも、瞳ちゃんに接するときくらい優しくなってくれればモテモテになれるの。 「はいはい、そこまでしときなよ、男子諸君」 見かねた様子で割り込んできた視歩ちゃんが手をパンパンと叩く。 粉原クンが露骨にほっとした顔をしている。顔に出やすいなぁ、なの。 「そうそう、せっかくのバレンタインなんだし大人しく受け取りなさい」 同調する芙由子さん。仕切り役をやらせるとしっくり来るよね。 お鍋とか一緒にしたら、鍋奉行に進んでなってくれそうだ。 あ、皆で鍋っていうのも楽しそうなの!次の計画は決まりなの! 「……………………(結構たくさんあるから、いっぱいたべてね)」 瞳ちゃんがニコニコと笑いかけている。 そういえば瞳ちゃんのチョコが一番多かった気がするの。 「えと…焔ちゃん、そろそろ渡してあげて?」 最後に香ちゃんが私の背中を押す。 よし、と気合を入れてトレイに乗せられたチョコたちを見る。 「はーい、なの!…それじゃあ、改めて。男子の諸君に日頃の感謝を込めて!」 「「「「「ハッピーバレンタイン!!」」」」」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある世界の名作劇場 美女と野獣みたいな体で ベルは やじゅうの すむ おしろへと やってきました。 てかがみを みながら、まえがみを ササッと なおし、むねに てをおき しんこきゅうしてから おしろの とびらを たたきます。 ベル 「ご、ごめんください。 商人の娘のベルという者です」 ベルが とびらのまえで そういうと、うしろから だれかが はなしかけてきました。 あいてを いかくするかのような するどく トゲトゲしい かみがた。 このよの すべての ふこうを せおいこんだかのような けだるい ひょうじょう。 「おまえの ちで あかく そめてやろうか」と いわんばかりの しろい Yシャツ。 おひとりさま 2パック までの 「とくばいひんの たまご」が はいった スーパーの ビニールぶくろ。 そう、このおとここそ おしろの あるじ、やじゅうです。 野獣 「うおっ!? ホントに来たのか… 悪ぃな、ちょっと買い物行っててさ。まぁ上がってくれよ」 ベル 「あ、お邪魔します…ってちょっと待て!! なにその格好!? どう見てもいつものアンタじゃない!! どこらへんが野獣な訳!?」 野獣 「んー…まぁ立ち話もなんだし、その辺りの話も城の中でな」 やじゅうに うながされ ベルは おしろに あしを ふみいれます。 はやくも せかいかんに ふあんが よぎって きました。 やじゅうは、おうじである じぶんが なぜ やじゅうに なってしまったのか、 ベル 「あ…ここでもう王子だってことをネタバラシしちゃうんだ……」 というか なぜ やじゅうに なっていないのに やじゅうに なったという せってい なのか、 ベル 「設定って言った!! 今はっきり設定って言った!!」 そのへんの ことを ポツリポツリと はなしはじめました。 ―――――――――― ―――――― ―― 魔法使い 「も~!! 王子ちゃんはいつもいつも補習をさぼって!! 今日という今日は、先生もゆるさないのですよ!?」 王子 「え、え~とですね…ワタクシめにも色々と事情があってですね…?」 魔法使い 「問答無用なのです! お仕置きに、魔法で王子ちゃんを野獣ちゃんに変えちゃうのです!」 王子 「え、でも先生って科学サイドの人だから、魔法とか使ったら危ないんじゃ……」 魔法使い 「その辺りは問題ありません。 先生は能力者ではないので、魔法を使っても脳に何の影響もないのですよ。 シスターちゃんに回復魔術を使ったことを、忘れたとは言わせませんよー?」 王子 「いや、忘れたって言わせてくださいよ。その頃の記憶ないんですから、俺」 そんなわけで、まほうつかいは つたない てつきでは ありますが、 おうじを やじゅうへと かえる まじゅつの じゅつしきを くんでいきます。 きっと このひのために いっしょうけんめい れんしゅう したのでしょう。 魔法使い 「それではいくのです! テクマクマヤコンテクマクマヤコン、 王子ちゃんを野獣ちゃんに変えちゃえなのです~~~!!!」 王子 「呪文に世代を感じる!! やっぱり先生って、結構年いってたんですね!?」 ……ですが なにも おきません。 なせなら、おうじの みぎてには どんな いのうの ちからでも もんどうむように うちけしてしまう、 「イマジンブレイカー」という のうりょくが そなわっていたからです。 こくな ことですが、どれだけ れんしゅうしようとも、はじめから いみは なかったのです。 王子 「……ど、どうしましょう…かね?」 魔法使い 「……………ぐすっ」 あ~あ! な~~かした~な~かした! 野獣 「あっ! だ、大丈夫ですよ!! こっからは野獣になったっていう体でいきますから!! ほら! 役名も野獣に変わりましたし!!」 こうして おうじは やじゅうに なったのでした。 ―― ―――――― ―――――――――― 野獣 「―――ってことがあってだな」 ベル 「長いわりには中身のない回想、どうもありがとう」 野獣 「で、ベルにはウチで暮らしてもらうことになる訳だけど…何か気になることとかあるか?」 ベルは ふるえながら やじゅうを みつめます。 げんさくと ちがうのは、その ふるえが きょうふから くるものでは ないという ところです。 ベルは まっかに なりながら、やじゅうの しつもんに こたえます。 ベル 「え、えっと……その…もも、もしかしたらなんだけど……お城の中って…わ、私達二人だけ…?」 きたいと ふあんと おとめごころが まじりあう ベルのしつもん。 ですが さすがは やじゅうです。 そのげんそうを ぶちころして くれました。 野獣 「いや、召使いが何人かいるよ。これでも元王子だし」 ベル 「……あ、あっそう………」 ひじょうに がっかりです。 と、ちょうど そこへ、めしつかいたちが やってきました。 召使いA 「おうじおうじ! お腹がすいたんだよ!」 野獣 「あーちょっと待ってな。さっき卵買ってきたから、オムライス作ってやるよ」 召使いB 「おいこら王子! 貴様は一端覧祭の準備をさぼって何をしているの!?」 野獣 「あ…はい、やりますやります……だから耳引っ張んないで……」 召使いC 「助ける気はあるんだな?」 野獣 「本当にその子が苦しめられているのなら」 やじゅうは めしつかいたちに ひっぱられ、あちこちで いろんなことを しはじめました。 ベル 「……召使いって何だっけ?」 おしろでの くらしが なれてきた あるひ、やじゅうは ベルに ふしぎな かがみを わたしました。 かがみを のぞきこむと、そこには じぶんの いえの ようすが うつしだされています。 ベル 「…あのさぁ……これは『iPad』っていうタブレット型コンピューターなの。鏡じゃなくて」 野獣 「いや知ってるよ! 仕方ないだろ!? 不思議な鏡なんて異能の力の塊みたいなモン、俺使えないんだから!」 ぶっちゃけ アイパッドの テレビでんわきのうです。でも ふしぎな かがみってことで おしとおします。 かがみを のぞきこむと、ゆかに たおれこんで あわを ふいている しょうにんの すがたが ありました。 野獣 「おいヤバくないか!? 一旦帰った方がいいんじゃ……」 ベルは しょうじき かえりたくありません。 しょうにんの あんぴよりも やじゅうとの せいかつのほうが だいじ だからです。 それに ベルは、あの じっけんのことを かんぜんに ゆるしたわけでは ありませんでした。 ベル 「ま、大丈夫なんじゃない? 簡単にくたばるようなヤツじゃないし。 それに私、アイツに『二度と帰ってくンな』って言われてるしね」 野獣 「いやいや、駄目だろ。ここで行かなかったら、話終わっちまうよ」 ベル 「うっ…」 それは ベルも こまります。この ものがたりを さいごまで やりとげたいからです。 なぜなら びじょとやじゅうの ラストは――― ベル 「わ、分かったわよ! 行けばいいんでしょ!? 行けば!」 こうして ベルは、いちど いえに かえることに なったのでした。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある世界の名作劇場
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第1章 表と裏と光と影と Intersecting_speculation 1 十一月二十一日、学園都市は異常なまでの活気に満ちていた。 三日後に迫った一端覧祭の準備に大忙しだからだ。 この一端覧祭は大覇星祭と同じく世界最大規模の文化祭であり、大覇星祭と同じく世界に公開されるので注目度も高い。 しかも演劇やクイズショーなどを学生達が能力をフルに使って演出する為、下手な映画よりも見応えがある。 一端覧祭には大覇星祭のように他校と得点を競い合うというのはないが、クリスマスイブの丁度一ヶ月前という事で学生(特に女生徒)にとって一つ大きな意味がある。 「毎年思うんだが、この時期の女子って妙に殺気立ってないか?」 浜面仕上はいつもとは違いすぎる街並を見て溜息とともに言う。 「それは、はまづらが、鈍感なだけ」 隣にいる少女はバッサリと斬り捨てる。 上下ピンクのジャージで街を歩き回るのは意外と目立つらしい。微妙に好奇の視線が突き刺さる。 右を見れば青髪で体格のいい少年が「俺はいつでも誰でもオッケーなんやでぇ~。」などと喚いている。 左を見れば黒髪ツンツン頭の少年が電撃を浴びながら「不幸だ~!」などと叫んでいる。 なんか聞き覚えのある声だがおそらく気のせいだろう。 彼らは現在『表』の住人として生活している。 先月激闘の末、学園都市第四位を退けた無能力者はその後『アイテム』下部組織を脱退し、普通の無能力者として生活している。 そして隣にいる少女、滝壺理后となぜか同居生活を続けている。 (いや、まあ確かにこいつには幸せになってもらいてえけどよ。確かに俺としてもやる事があるわけだけどよ) 「はまづら?」 (それにしたっていきなり同居はねえだろ…。何考えてんだあの巨乳警備員) 「はまづら」 (しかもこいつはこいつで全然意識もしないでくっついてくるし…。この一ヶ月色んな意味で生きてる心地がしないぜ) 「はまづら!」 クイクイ、と滝壺は浜面の袖を掴んで少し強い口調で問いかける。とは言っても彼女の平坦な口調での話なのでその些細な変化に気付けるのは浜面だけだ。 「ん?ああ、どうした?」 「はまづらが、ボーっとしてる」 「…そのセリフをお前に言われるとはな」 「はまづら。どこ行くの?」 「ああ、ちょっとした知り合いの所だ。割と大事な話があるからな」 「?」 滝壺は首を傾げるが、浜面は構わず進む。滝壺も置いていかれないようについていく。 「ちょっとした交渉だよ。今の状態のままじゃ流石に色々とまずいだろ?」 「何がまずいの?」 「今の状態だよ。いくら何でも同居状態はまずいだろ。それにお前は学校の寮が手配されてるって話じゃないか。だったらそっち行った方が生活しやすいぞ」 浜面は何の気なしに言ったが、その言葉は滝壺を怒らせるには充分すぎた。 「はまづら。やっぱり鈍感」 ボソリ、と小声で恨み事を言う滝壺の背中から黒いオーラが出ているのは気のせいだ。と浜面は自分に言い聞かせていた。 2 「結局、彼らはどうなったんですか?」 『ん?まぁこっちで保護するって話にはなったんだけど…。正直、私としては反対なのよねー。貝積の野郎がしつこくてさー』 「どういう事なんですか?」 『今戦争が起きそうな話は知ってるでしょ?んで、学園都市と手を組んでる組織が内乱起こしちゃってさー』 「それとこれと何の関係があるんです?」 『単純にそこまで時間と人を割けないって事。「猟犬部隊」は再編の目処が立たず、「未元物質」と「原子崩し」も失って今の学園都市は満身創痍なのよねー』 そこで電話口の女は一つ溜息を挟んで、 『イギリスの動向に注意しつつ、ローマも相手にしなきゃいけない状況なのに、更に厄介事を持ち込まれちゃたまんないわけよ』 女はそう言ってはいるが、口調からしてそこまで困っているようには感じられない。 『ところでさ、絹旗ちゃん?』 「何です?」 『新人のあの子、どうよ?』 「超使えないです。敵にやられるだけならまだしも、能力暴発させて超死にましたけど」 『死んでたのかよっ!』 「何であんなのよこしたんです?」 『しょーがないじゃーん。だって「スクール」はうざいし、「ブロック」と「メンバー」は消滅しちゃったし。こっちも人材不足なのだよ』 はぁ、と絹旗は溜息をつく。何でこんなわがままな女が『アイテム』の上役なのだろう。 『やっぱそこはさ、「アイテム」新リーダーの絹旗ちゃんにしか頼めないなーなんて。頼りにしてるんだよー?』 「頼りにしてくれるのは超ありがたいんですけど手回しくらいはきちんとして欲しいんですが」 『どゆ事?』 「先月私が海外出張しに行った事覚えています?あの時、向こうのホテルの予約が取れてなくて超野宿したんですけど?」 『あ…』 「あと先週の回収任務の給料貰ってないんですけど」 『あぅ…』 「ついでに一昨日貨した五千円、超返して下さい」 『いや、あのね、絹旗ちゃん?』 「何ですか?」 『そこは後ばら』 「超却下です」 絹旗は女の言葉を最後まで聞かずに宣告した。 「とりあえず今からそっちに向かいます。それまでに用意しといて下さい。もしできなかったら超デコピンなので」 『いやーーーー!!それはやめてーーーーー!!?前回あれやられて一週間も腫れてたんだからーーーーー!!!!!!』 電話口でぎゃあぎゃあ騒ぐ女を無視して電話を切ると、絹旗は狭い路地裏に消えていった。 3 土御門元春は黙考していた。 最近、義妹の舞夏の様子がおかしい。 思えば先月のいつだったか、隣の上条宅に突っ込んで行ってからおかしくなっている。 いや、厳密に言えば突っ込んで行った時点でおかしかったが。 とにかく、以前のように「兄貴ー」と笑いながらとてとて寄ってくる事がなくなってしまった。 なんだこれは。反抗期なのか。自分は舞夏に反抗されるような事をしたのか。 否。そんなはずはない。 毎日記入している門外不出の『舞夏育成ノート』にはそのような記述は一切ない。 万一あったとしても自分がそのような愚行を犯しておいて、忘れるはずがない。 ではなぜ…? 「にゃー…」 べちゃり、と音がしそうなくらいの脱力ぶりでテーブルに突っ伏すシスコン軍曹。 そのテーブルには舞夏が早起きして作ったのであろう、味噌汁が入った鍋が置いてある。 その鍋を見つめながらシスコン軍曹は再び思考の渦に身を投じる。 事の発端は天草式の少女が上条の部屋を訪れた日だ。 舞夏と楽しくホワイトシチューをつつくはずだったのに、当の舞夏が突然血相を変えてベランダの壁をぶち抜き上条宅へと突入していった。 ほどなくして戻ってきたと思えば味噌汁がどうのこうので舞夏クッキングタイムに入ってしまった。 こうなると兄でも手がつけられない。 話だけでも、と一度だけ邪魔をした時があったが、その時は凄まじいボディブローを食らい一撃KOされている。 それからというものの、舞夏の味噌汁奮闘記に付き合わされ続けている。というか味噌汁しか出てこない。 愛する義妹の手料理と言えど、一ヶ月以上も毎日味噌汁しか出てこないとなると流石のシスコン軍曹も飽きてくる。 (にゃー…。味は文句なしなんだが、以前のような愛がないにゃー。これでは俺の腹は満たせないんだぜい) しかし、こんな事を意見すれば待っているのは悶絶ボディブローだ。味噌汁をぶちまけたくなかったら黙って食べるしかない。 「食べ物に不自由するのは結構つらいぜい。カミやんも毎日こんな生活なのかにゃー」 思わずそんな独り言を放った直後、土御門はあるとんでもない可能性に気付いてしまう。 舞夏がおかしくなったのは上条当麻の部屋に行ってからだ。 (まさか…) そしてその上条当麻は関わった女性に対して高確率かつ平等にフラグを立てる旗男だ。 (そんな事が…) その上条当麻は日々食糧難に苦しんでいる。 (あるはずが…) そして舞夏は上条宅から帰還後に究極の味噌汁開発に明け暮れている。 これらの事実から推測される事は…。 「ふざけるなああああああああ!!!!!!!おのれ!!!上条当麻ああああああああ!!!!!!!!!」 ガタッ!!と凄まじい勢いでシスコン軍曹は立ち上がり野太い声で叫ぶ。 「外国人巫女様お嬢様妹巨乳でこ女子高生豊乳シスター爆乳エロスお姉さん堕天使エロメイド隠れ巨乳と散々フラグを立てておいてまだ足りぬか!!!!」 いつもの軽い口調は完全に吹っ飛んでいる。この男、マジである。 「今までは大目に見てきたが舞夏だけは許せん!!もう見過ごす事はできんっっ!!!!!!!」 そう宣言すると土御門はベランダではなく部屋の壁をぶち抜いて上条宅へと侵攻していくのであった 4 一端覧祭を控えいつも以上の喧騒が広がる学園都市の中でこの空間は静かだ。 ちょっとアルコールの匂いが鼻につくが、それでもどこか心地良さを感じる事ができる。 辺りは一面真っ白で清潔感そのものだった。 すれ違う人も落ち着いていて平穏な時間を過ごしているように見える。 海原光貴はそんな廊下を歩いていた。 つい今しがたショチトルという少女の見舞いを終えたところだった。 あれから毎日の日課になっているが、未だに口を利いてもらえない。 それでも最初の頃は転院した事も教えてもらえず、病室にすら入れてくれなかったのだから見舞いができているだけでも彼女との距離は確実に縮まっている。 「ようやく、向き合えてきたのでしょうかね」 海原は思わず頬を緩めてしまう。 自分は『組織』を抜け学園都市の暗部へと潜りこんだ。多くの命を奪い、自らの目的の為とあれば大切な人を傷つける事すら考えた程だ。 そんな闇に染まった自分にこんな穏やかな感情がまだ残っていたとは。 まだ少し痛む頭で海原はぼんやりとそんな事を考えていた。 「おや?」 病院を出て携帯電話の電源を入れるとディスプレイに見慣れた番号が表示される。 その番号をプッシュしようとした瞬間、 ヒュン!と空気を切り裂くような音と共に一人の少女が現れた。 「結標さん、トラウマは完全に克服されたのですか?」 「茶化さないで。これでも精神集中して慎重に演算してようやくできたんだから」 そう返答した結標の背中には低周波振動治療器はなかった。常に携帯してあった懐中電灯もない。 これはあの日、結標が『仲間』に誓った覚悟の証。 自身のトラウマがどうこうという問題ではない。自分の力で『仲間』を助ける。ただその一点。その一点が結標淡希を突き動かしている。 「それにしても、よくここにいるとわかりましたね」 「あなたの行動パターンくらいわかってるわよ」 結標はぶっきらぼうに答える。 「それはそれは」 海原は少し笑みを浮かべて、 「ところで用件は何でしょう?もしかして一端覧祭のデートのお誘いですか?」 「まだ平和ボケしてるんだったら、そのニヤけた顔にコルク抜きでもぶち込んであげようかしら?」 結標は不適な笑みを浮かべながら海原へ冷たい視線を送る。 懐中電灯を持たない今、結標の攻撃は予備動作なしで繰り出される事になる。その事を瞬時に理解した海原は降参とばかりに両手を上げる。 「仕事…ってほどじゃないんだけど、ちょっと協力して欲しい事があるのよ」 海原は表情を少し引き締め答える。 「先日の『残骸』の件ですか?」 結標は頷くと付いてこい、と言わんばかりに歩き出す。 「あなたは察しが良くて助かるわ。世界中に散らばっていた『残骸』が急に回収されたのは知っているわよね。それでちょっとばかり引っかかる事があるのよ」 「引っかかる事…ですか?」 海原は正面からテントの骨組みを持った男子高校生を避けながら結標に先を促す。 「私は以前、地上に落ちた『残骸』を回収してるけど、その時は一方通行に破壊されてるの。でもここにきて学園都市が急に『残骸』を回収し始めてるの」 「『残骸』は『外』の連中が血眼になって回収に飛んでいるはずですが…そもそも、それが『残骸』だと言う確証は?」 「ないわ。ただ、この件で人員不足の『アイテム』がわざわざ『外』まで出向いてる事を考えるとあながち嘘でもなさそうじゃない?」 「さっき世界中と仰りましたが、それが本当だとしたらそれなりの数の『残骸』が既に地上にあるという事になりますが…」 「いくつか地上に落下していたんでしょう。『外』の連中に回収されても問題ないとは思うのだけれど…データを失うのが嫌なのかしらね」 「しかし何で今なんでしょうね?貴女が『残骸』を回収したのは九月半ば。二ヶ月も経った今頃になって回収し始めるというのは…」 「それが引っかかってるのよ。『外』は今戦争直前で混乱しつつある。レベル5を二人も失った今の学園都市に寄り道をしている余裕があるとは思えないわ」 「しかし、それが寄り道ではなく近道だとしたら」 海原が質問するように返す。 結標は足を止め、天を仰ぎ、答える。 「もしかしたら私達にとっても近道になるかもしれないわね」 5 垣根帝督はとある高校の校門前に立っていた。 ミディアムヘアの金髪を靡かせ、校門前で佇む彼の姿は他校から殴り込みを仕掛けに行く不良のようにも見える。 当然、とある高校の生徒からの視線が集まるが、垣根はそんな事は気にしない。彼の目的は一つしかないからだ。 そんな彼に横合いから話しかけてくる人物が一人。 「こんな所で立って何をしているのですかー?」 垣根は声のした方向に視線を移すが何もない。 いや、いた。 自分の肘あたりに、訝しげな視線を向ける一人の幼女が。 「見ての通りここは高校ですよー?服装を見る限りあなたはここの生徒には見えませんが…?」 幼女にしては話し方が妙に大人びている。だが問題はそこではない。なぜ高校の敷地内に堂々と小学生と思しき幼女がいるのか。 しかしそこは紳士な垣根。警戒されないように優しい口調で言葉を返す。 「俺はここの生徒に用事があるんだよ。もし迷子ならここの職員を訪ねるといいよ」 「私は迷子なんかじゃありませんよー?と言うかここの先生です」 この小学生、中々面白い事を言うじゃねえか、と垣根は頭の中で感心する。しかし、こんな子供に構っていられるほど暇ではない。 「とりあえず職員室にでも行こうか」 垣根は幼女と共に学校敷地内に入ろうとするが幼女は断固阻止する。 「殴り込みはいけないのです!何か理由があるのなら先生が聞くのです!」 幼女は垣根の左足をガッチリとホールドしている。 まだ続けるのかこのガキ、と紳士な垣根が眉間に皺を寄せかけると、 「月詠先生。何をなさっているんです?」 今度は落ち着いた、大人の女性の声が聞こえた。声の主は教師を絵に描いたような黒縁眼鏡に整った髪、これと言って特徴のない顔といい教師の鑑みたいな女だった。 垣根はこの女がこの高校の教師であると確信すると、 「ここの高校の雲川芹亜という方に会いに来たんですが」 いきなり尋ねられた女教師は不審に思いながらも、雲川という生徒について考える。が、そんな生徒がいたという記憶はない。生憎だけど知らないわね、と答えようとした時、 「雲川ちゃんですか?だったらこの時間だと食堂にいるんじゃないですかー?」 また幼女が口を挟んできた。うんざりしながら幼女に視線を戻すと幼女は続ける。 「彼女はいつも食堂の椅子を繋げて寝ているのです。今ちょうど昼休みも終わったところですし、早く行かないと雲川ちゃん寝ちゃいますよ」 なんでそんな事まで知っているんだ、このガキ。という疑問を飲み込み垣根は少し考える。 様子を見るとあの女教師は雲川自体を知らないだろう。このガキの言ってる事も信用できないが、ここまで具体的に言い切るのなら知っている可能性もある。 もし違かったのなら職員室で尋ねればいいだけだ。何よりさっさとこの面倒臭い状況から抜け出したかった。 そう判断すると「ありがとう、お嬢さん」と幼女に微笑みかけ校舎に向かって歩いていく。 そんな少年の後ろ姿を呆然と眺める特徴のない女教師――親船素甘は隣にいる幼女教師――月詠小萌に視線を向け、 「あんなどこの馬の骨ともわからない少年を校舎に入れてしまってもいいんですか?それに今は黄泉川先生は休み、災誤先生は未だに療養中なのに…。何かあったら対処できませんよ?」 しかし幼女教師は平らな胸を力いっぱい張ってきっぱりと返答する。 「大丈夫なのです。あの子はそんなに悪い子には見えません」 一体何を根拠に?と親船はさっぱり理解ができずに首を傾げるが、きちんとした理由があった。 初対面なのに「え?こいつ教師なの?」と聞かれなかったという立派な理由が。 6 土御門元春は困惑していた。 上条当麻を抹消すべく壁をぶち抜きターミネーターの如く登場したはいいが、その眼前にいたのは長く艶のある黒髪を梳かしていた姫神秋沙だった。 姫神は本能で危険を察知したのか髪を梳かしていた櫛を魔法のステッキのように土御門に向けるが、当然何も起こるはずがない。彼女は魔術師ではないのだ。 ようやく侵入者がデルタフォースの金髪だと認識すると、櫛を構えていた右手を下ろし、 「びっくりした。どうしたの?」 姫神の問いかけにようやく我に返った土御門は左手を腰に当て白々しい笑みを作る。 「いやー…遂にロリの真理を発見してにゃー。それを一秒でも早くカミやんに伝えねばと思ったんだぜい」 何やら不審な事を口走り始めたロリコンサングラスに姫神は再び櫛を構える。 墓穴を掘った、とちょっとばかり後悔した土御門は別の話題を探す。上条がいないのは既に気付いていたが、そこで別の事に気付いた。 「そういえば食いしん坊シスターはどこに行ったんだにゃー?」 ついでに三毛猫もいない、文字通り姫神と土御門の二人しかいない部屋で姫神の淡々とした声が響く。 「小萌の所へ出かけて行った」 土御門が通う高校では今日から三日間は一端覧祭の準備日という事で授業は休みだ。学校では有志の生徒が登校して準備をしている。小萌はその監督者と言ったところだろうか。 当然、土御門のように通常の授業さえまともに受けていない生徒が休日に有志で準備を志願するはずがない。てっきり上条も同類で部屋で「うだー…」としているとばかり思っていたのだが。 「カミやんは?」 「ジュース。買いに行ってくるって」 ふむ。やはり同類だったようだ。まぁ黙って待っていれば直に帰ってくるという事だ。 「ところで姫神は何でカミやんの部屋にいるんだにゃー?」 姫神はクラスメイトの吹寄と仲が良い。当然、吹寄は準備組だろうし姫神もそこの一人であると思っていたのだが。 「大覇星祭の埋め合わせ。私はいい。と言ったのに彼がどうしても。と言うから」 姫神は至って平静を装って説明するが、彼女の手の中にある櫛は凄まじい速さで高速回転している。 この野郎、今日は巫女様ルートを進めるつもりか、と上条への殺意をより固めるヒットマン土御門。 だいたいの状況を把握した土御門は壁に大穴が開いた主なき部屋で標的を待つ事にした。 「………………………………………」 「………………………………………」 微妙な沈黙だ。 土御門元春には姫神秋沙に対して負い目がある。 それは大覇星祭での事。 とある魔術師との戦闘に巻き込まれた姫神は、その魔術師の手によって瀕死の重傷を負ってしまった。 しかも自分が相手に放ったハッタリが間接的な引き金になったと知って自分の失策を恥じた。それが自分の知らないところで起こった悲劇なので尚更腹が立った。 もちろん、当時の戦況を知る者であれば彼の判断を責める事などできるはずがない。 だが、プロの魔術師として魔術に何の関係もない一般人を巻き込んだ時点で自分を許す事などできるはずがなかった。 しかもイレギュラーだったとは言え、吹寄制理まで巻き込んでしまっていた。 本来であれば、きちんと筋を通して謝るべきなのだろうが彼の立場上謝るわけにもいかない。彼女達からすれば土御門はあの一件に関わっているはずがないのだから。 そのジレンマが土御門を葛藤させる。 「土御門君。」 姫神が唐突に口を開く。 土御門はまるで摘み食いがバレた子供のように素早く姫神に視線を向ける。 「なんか。いつもと雰囲気が違う」 女という生き物は怖い。こういう時は第六感が働くのだろうか、些細な変化でも敏感に察知してくる。 この能力ばかりは科学と魔術の暗部で立ち回っている土御門といえども会得できない特殊なものだ。だが、土御門とてプロのスパイ。核心までは掴ませない。 「気のせいにゃー。土御門さんにも真面目モードになる時があるんだぜい?」 「信じられない。君は死ぬ瞬間ですらヘラヘラしてそう」 これは一度誤解を解いておくべきか。と土御門は頭を抱えかけたがその時、 ピンポーン、と平凡なインターホンが鳴り響いた。 何だ何だ。来客か?と首を傾げる二人。ここは上条の部屋だし、自分の部屋に入るのにわざわざインターホンを鳴らすわけがない。 居留守を決め込む理由もないので、とりあえずドアを開ける。 そこにいたのは、姫神と同じく黒髪の少女。 しかし彼女の服装は制服ではなく完全な私服である。 デニムパンツを穿き、真ん中にレースの入った白のシャツの上にグレーのベストを羽織っている。これでレイピアでも持っていれば貴族に見える。 「あ、あれ…?ここって上条さんのお宅じゃ…それにその声、確かアビニョンで…。」 予想外の人物のお出迎えに戸惑う天草式少女。 この人誰?と訝しげな視線を送る元巫女様。 これは修羅場の予感だにゃー、とニヤけるエージェント。 上条の与り知らぬ所で奇妙な三人組が誕生した。 7 浜面仕上と滝壺理后は第二学区を歩いていた。 この第二学区には『警備員』と『風紀委員』の訓練所がある。 今は常時警戒態勢にある為か、建物の至る所から物騒な音が鳴り響いている。その騒音対策の為に張り巡らされている防音壁が何者かによる包囲網にも見えてしまう。 それだけこの第二学区は殺気立っていた。 なぜそんな物騒な所に無力な少年少女(片方はレベル4)がいるかと言うと、ある人物に会う為だ。 「お、浜面~。久しぶりじゃん」 「くそっ。何でこの女はいつもこんな軽いテンションなんだよ」 待ち合わせ場所には既にジャージ女―――黄泉川愛穂が立っていた。 「いきなり電話で話があるとか言って呼び出しておいて何じゃんよ?しかも彼女まで同伴させちゃって~。も、もしや結婚!?いや~浜面も遂に所帯持ちか~」 「けっ!?ち、違えよバカ!!」 浜面は、一人であさっての方向を向きながら息子の門出を祝う母親のような顔になっている黄泉川に向かって必死に否定の言葉を返すが聞いているかどうかは怪しい。 「何じゃんよ?私はまだ未婚だから婚姻届の書き方は知らないじゃんよ。とりあえず役所に行けば教えてもらえるんじゃん?」 「そうじゃなくて…。滝壺の寮の事だよ」 トボけるジャージ女の話を無視して浜面は無理矢理用件の本筋に入る。 「滝壺には一応、学校の寮の部屋が割り当てられてるんだろ?なのに何でお前はわざわざ俺の所に滝壺を預けたんだよ?」 滝壺理后は退院後、その稀少な能力を認められ霧ヶ丘女学院へ入学した。 もっとも、彼女はもう実質的に能力を使う事ができないのでその学校に通えるとは思えないのだが…。そのあたりはある人物の強い推薦があったとかないとか…。 ともかく、浜面の言い分としては寮があるのなら寮に入り、健全な高校生活を送るべきだ、という事だった。しかし。 「浜面のくせにまともな事言うじゃん。てゆうか変な物食べた?」 「ほらなっ!絶対そう返すと思ったんだ!人が折角更正しようと頑張り出した途端にこれだよ!!」 「まあまあ。確かに浜面の言う事も一理あるのはあるじゃん。でも…」 急に黄泉川は右手を口に当て言葉を止める。 「?」 浜面が首を傾げていると、黄泉川は口を開く。 「だってさ、浜面はやっとやりたい事が見つかったって言ってたじゃんよ?それはその子を自分の手で守る事なんじゃないの?」 「うっ」 「私としては気を遣ってあげたつもりじゃん。だってそうじゃん?常に一緒にいれば、どんな魔の手が来ようともすぐに浜面が助けられるじゃんよ」 「それは…」 「それにあの時の浜面は確かに守るべきモノを守ろうとする男の目をしてたじゃん。」 「……」 「それともあれは嘘だった?勢いで思わず口走っちゃって、今度は面倒臭くなったから他人様に宜しくお願いしますって感じ?」 「それは違う!」 「だったら今のままで問題ないじゃん」 返す言葉がない。 見事なまでに言い包められた交渉人・浜面仕上。そもそも交渉にすらなっていなかったが。 「それに…その子は絶対に一人にさせちゃ駄目じゃんよ…」 ボソッ。と、聞こえるか聞こえないかというつぶやき。 浜面は聞き取れなかったのか首を傾げるが、黄泉川はサッと顔を上げ、 「まあそういう事じゃん。相談なら逐一聞くじゃんよ。じゃあ私は射撃訓練があるから。じゃ~ね~」 そう言い残すとジャージ女は颯爽と去っていった。 「はまづら」 すると、これまで口を真一文字に閉じて二人のやりとりを見ていた滝壺がポツリと言った。 「あの女の人。あんな色のジャージなんか着てて恥ずかしくないの?」 浜面はツッこむべきかどうか一瞬迷ったが、華麗にスルーした。 彼はもうシリアスなのかギャグなのかわからない場の空気についていけなくなっていた。 8 垣根は食堂に繋がる廊下を歩いていた。校内の見取り図は知らないが、学校の食堂がどのような場所にあるかというのは大体の見当がつく。 途中、三毛猫を抱えた白い修道服の少女が「プリンプリンーーー!」と叫んでいた。はて、この学区には神学系の学校はあったか?などと考えていると食堂に着いた。 入り口には『一端覧祭直前特別企画!先着5名様に限り特製焼きプリン250円!』という立て看板がある。 気楽なもんだ。と、乾いた笑いを浮かべつつ食堂の中に入る。 食堂にはほとんど人がいなかった。学校が自由登校日だという事もあるのだろうが、昼のピークの時間を過ぎていたので生徒のほとんどは自分の教室に帰ったのだろう。 静かな食堂というのは、どこか裏路地の静寂にも似ている。 「あら、珍しいお客さんが来たみたいだけど」 その静寂を破る声。その声は小さくもなく大きくもない。しかし身を貫くようなしっかりとした声だった。 「随分と愉快な寝床じゃねえか」 「こう見えて結構な寝心地なんだけど。あなたもどう?」 冗談じゃねえ。とばかりに垣根は椅子に腰を下ろす。 「改めて、ようこそ未元物質(ダークマター)。こうして面と向かって話をするのは初めてだけど」 雲川は椅子を繋げたベッドから起き上がりながら言う。 「俺の名前を知らないわけじゃないだろ?できれば名前で呼んで欲しいな」 失礼。とばかりに笑みで返事をすると雲川も椅子に腰を下ろし垣根と正対する。 「色々と聞きたい事があるんだが。とりあえずテメェはどこまで知っている?」 「少なくともあなたよりは知らないと思うんだけど」 「すっ呆けやがって。テメェの『役割』くらい知ってるんだよ」 「そうカリカリしなくてもいいと思うんだけど。そうね、とりあえずここ最近の学園都市の動きでも話そうか」 「そんな世間話をする為にわざわざ来たわけじゃないんだけどな」 「話をするにも順序ってものがあるんだけど。それにあなたが眠っていた間の情報とかもあるけど?」 「そうかい」 垣根は背もたれに体重をかけ、さっさと話せとばかりに視線と顎を上げる。 「『未元物質』垣根帝督は死んだ。もちろん、表向きには…だけど」 垣根は動かない。そんな事には興味がないようだ。 「それによって学園都市の順位に変動が出た。第三位の『超電磁砲』が第二位に、第五位の『心理掌握』が第三位になったわけだけど」 「へー。あの雑魚が第二位ねえ。学園都市もヤキが回ったもんだな」 「一言に雑魚って言うけど、それはあなたの次元での話でしょ?普通に考えたら『超電磁砲』だって充分脅威だけど」 「人一人も殺せないような甘ちゃんなんか使い物にならねえだろ?」 「それはあなた達のような人種じゃないからだけど。それにあの子は学園都市にかなり協力してくれてると思うけど?」 「『妹達』か。一方通行に殺される為だけに生み出されたクローン体…。まったく、同情するぜ」 雲川は何かを言いかけたが、その言葉を飲み込み別の言葉を紡ぐ。 「それと例のローマ教徒との対立だけど、今はとりあえずは小休止ってところ。何でもあっちで色々トラブルがあったらしいけど」 「ふーん」 「まぁ…この辺はあなたにとってはどうでもいいってところだろうけど」 「道理で以前に比べて街中が騒がしくなってないわけだ。この学校に至っては呑気に学園祭の準備だもんな。危機感ってのは感じないのか?」 垣根は呆れたような声で話すが、雲川は構わず話を続ける。 「とりあえずはこれが学園都市の『表』の動き。次に『裏』だけど、今活動してるのは『グループ』と『アイテム』の2つ。あなたのいた『スクール』は再編中らしいけど」 「…。『ピンセット』はどうなった?」 「『グループ』が回収した。確か回収したのは土御門とか言う男だったと思うけど」 一方通行ではなかったのか、と垣根は思った。 「(なるほど、コソ泥がいたわけか。誰だか知らんが後で回収しとくか)」 「そういえばあなたは『ピンセット』の情報は見た?」 「あぁ。大した情報は無かったけどな。一つを除いてな」 雲川はその一つが何なのかを察し、こう釘を刺した。 「その件に関しては本当に知らないぞ。私だって普通の女子高生なんだ。いつも闇にいるお前らのように汚れていないんだけど」 よく言うぜ。と垣根は鼻で笑い、 「じゃあ本題に入るか」 不適な笑いを浮かべる少年と少女は更なる闇の世界へと潜り込んでいく。 9 「学園都市はコソコソと何をやっている?」 垣根は最も聞きたい事をストレートに聞いた。 「新たな『戦力』の増強だけど」 雲川もストレートに答える。 「『戦力』?何だ?遂に本格的に戦争でも始める気か?」 「いずれは…だけど。今は学園都市も『外』も内部状況が良くない。事実上、停戦状態だけど」 「まぁ学園都市はわかるが…何だ、『外』もゴタゴタやってるのか?」 「さっきもちょっと触れたけどイギリスでクーデターがあったらしい。ローマも教皇の謎の負傷で大混乱。どの陣営も敵地を攻め込めるような状況じゃないわけだけど」 「どこにでも反乱分子ってのはいるんだな」 垣根は口笛を吹きながら過去の自分を思い出し、笑う。 「だがそれだけじゃない。ロシアが不穏な動きを見せているみたいなんだけど」 「ロシア?」 「ロシアのある集団が『原石』と『残骸』を回収し始めたんだけど。」 「『原石』ねえ…。『残骸』はまだわかるが、何だってそんな特異体なんか集めてんだ?コレクションにでもする気か?」 「『原石』がこの戦争の行方を大きく変える…私はそう思っているんだけど?」 「仮にそうだとして、こっちには最高の『原石』がいるんだろ?二つか三つ持っていかれたくらいでどうにかなるもんでもないだろ」 雲川は背筋を伸ばし一拍置いてから答える。 「確かにここには削板軍覇がいる。即戦力として戦える力は充分にあると思うけど」 雲川はさらに一拍置いて、 「その削板が何者かによってやられている。殺されない程度にだけど。しかもアレイスターに『原石』への警告までしたもんだ」 「そいつはまた面白ぇ野郎だな」 垣根は感心したように言う。 「これが何を意味するかはわかるでしょ?『原石』を戦争に使わせまいとする連中もいるわけだけど」 「アレイスターの野郎が使わずにいられるわけがねえな」 垣根はあっけらかんと断言する。 「それに『原石』は本当に未知の存在でもあるわけだけど。削板を見ればわかるが、とにかく能力そのものが稀少で特異だ。出力すらも定かではない」 「そんな危険物を能力開発の素人集団に取られるわけにはいかねえ…そういう事か」 雲川は頬杖をつくと、 「もし、半覚醒で暴発した場合どれほどの暴走になるかわからない。仮に覚醒したとしてどれほどの能力が発現するかもわからない。学園都市にとってマイナスはあってもプラスはないわけだけど」 「だから全ての『原石』を学園都市に集めて、あわよくば新たなレベル5を作り出すって事だな」 「そこまで具体的な事はわからない。まぁ、あなたの推測が一番無難だとは思うけど。もっとも、そうなれば警告を無視するわけだから奴も黙ってないだろうけど」 「で、その回収状況はどうなのよ?」 「8割方は回収できてるみたいだけど。きちんとした数もわからないからきっちり全部ってわけにはいかないだろうがな」 雲川は右目にかかった前髪をカチューシャで掻き上げて、 「例え一つでも向こうに回収されればそれが命取りになる可能性がある。もし、それが『当たり』なら一方通行クラスの能力者が敵に回る可能性があるわけだけど」 「そうなったら『上』は大慌てだろうなぁ」 垣根は人事のように言うが、一方通行の本当の強さは自分が一番わかっている。義手をつけた右手がうずいたのがわかった。 「だから『上』はあなたを生かしたと思うんだけど」 「別に学園都市の為に戦う気なんかねえよ。俺は自分の敵以外は傷つけたくないタチなんでね」 垣根はそう言うと、聞きたい事は聞き終わったのか立ち上がるとそのまま踵を返した。 雲川はその背中に一言だけ告げる。 「そうそう、削板にもあなたのように『役割』があるわけなんだけど」 「あん?」 「まぁ、直にわかるさ」 雲川は薄く、薄く笑うと再び椅子を繋げて寝転んでしまう。 垣根は意味がわからなかったが、考えてもわからないとわかると食堂を去っていった。 「本当に、この学校はいろんな刺激に溢れてるな」 雲川は笑う。天使とも悪魔とも無邪気とも妖艶とも取れるような笑顔で。 行間 とあるアパートメントに一通の手紙が届いた。 差出人はとある里親の友人だった。 まずその手紙を見たボンヌドダームの女は我が目を疑った。そしてすぐさま同居人の青年に手紙を渡す。 手紙の内容は里親が何者かに殺害された事。そしてその里親の子供が何者かに連れ去られたという事。その何者かの目撃情報として機械の装甲を身に纏った集団がいた事。 青年は激昂した。 彼は学園都市に牽制の意味を込めた襲撃を行っている。それは『原石』の保護なら構わないが、彼らの生活を脅かす事をするのなら容赦なく叩き伏せるという事だった。 そして学園都市はその牽制を無視した。これは回収や保護といったものではない。 青年はあの少女に自分の手で幸福を手に入れてくれ、と言った。 そして少女はその幸福を手に入れるべく、あの里親と共に新たな人生を歩むはずだった。 青年の頭にアパートメントを出て行く時の少女の幸せそうな顔が浮かび上がる。 しかしその幸福はあっさりと奪われようとしている。いや、もう奪われているのかもしれない。 青年の眼がある一つの『モノ』に変わろうとしている。 もはや酌量の余地は無かった。 警告はした。その上で学園都市が『原石』を使い潰す覚悟があるのなら、彼らの自由を奪い取るというのなら、青年が取るべき行動は一つしかない。 青年の見た目に変化はない。しかし彼の周りにはこの世にあらざる空気が漂っている。何にも形容できないオーラがある。 「行ってくる」 青年は一言だけ告げるとアパートメントから出て行った。 ボンヌドダームの女は引き止める事はしなかった。いや、指一本動かす事すらできなかった。 世界中で一番彼の事を理解しているであろう彼女でさえ、今の青年の雰囲気は異常だった。 学園都市は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった。もう引き返す事はできない。 ボンヌドダームの女はかつてない戦慄を感じながら一つだけ、確信にも似た事を考えていた。 学園都市はこの世界から跡形もなく消滅する―――と。
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目的 内容目次 目的 本と自分との関連を整理します。 収集した本を管理するため + 本に関連した知識の整理 + これまでたどって来た経験、関心の本による整理、分類 (ごく最近のものに限定) 内容目次 Library/医学 Library/医学/CBT・OSCE Library/医学/USMLE Library/医学/アンチエイジング Library/医学/カリキュラム Library/医学/医学的効率勉強法 Library/医学/国試 Library/医学/基礎医学 Library/医学/基礎医学/免疫学 Library/医学/基礎医学/微生物学・ウイルス学 Library/医学/基礎医学/法医学 Library/医学/基礎医学/生化学 Library/医学/基礎医学/生理学 Library/医学/基礎医学/病理学 Library/医学/基礎医学/発生学(発生生物学) Library/医学/基礎医学/組織学 Library/医学/基礎医学/薬理学 Library/医学/基礎医学/解剖学・解剖実習 Library/医学/疾患リスクファクターまとめ Library/医学/研修医 Library/医学/臨床 Library/医学/臨床/マイナー科 Library/医学/臨床/マイナー科/01_整形外科 Library/医学/臨床/マイナー科/02_眼科 Library/医学/臨床/マイナー科/03_耳鼻咽頭科 Library/医学/臨床/マイナー科/04_泌尿器 Library/医学/臨床/マイナー科/05_精神科 Library/医学/臨床/マイナー科/06_皮膚科 Library/医学/臨床/マイナー科/07_放射線科 Library/医学/臨床/内科・外科 Library/医学/臨床/内科・外科/00_総合診療・救急 Library/医学/臨床/内科・外科/01_腎 Library/医学/臨床/内科・外科/02_内分泌・代謝 Library/医学/臨床/内科・外科/03_血液 Library/医学/臨床/内科・外科/04_免疫・膠原病 Library/医学/臨床/内科・外科/05_感染症 Library/医学/臨床/内科・外科/06_呼吸器 Library/医学/臨床/内科・外科/07_循環器 Library/医学/臨床/内科・外科/08_消化器 Library/医学/臨床/内科・外科/09_肝胆膵 Library/医学/臨床/内科・外科/10_神経 Library/医学/臨床/外科全般・麻酔科 Library/医学/臨床/小児科 Library/医学/臨床/産婦人科 Library/医学/臨床/身体所見手技 Library/医学/自動化 Library/工学 Library/工学/コンピュータアーキテクチャ Library/工学/パターン認識:機械学習:データマイニング Library/工学/パターン認識:機械学習:データマイニング/推定 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/Algorithm-Library Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/C・C++ Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/Linux-OS・プログラミング Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/Python Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/P≠NP問題 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/R Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/セキュリティ Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/ソフトウェアツール集 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/データベース・データ構造・SQL Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/ネットワーク工学・プログラミング Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/ネットワーク工学・プログラミング/Note1_スループット Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/ネットワーク工学・プログラミング/V-Bates駆除記録 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/情報検索 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/数値計算 Library/工学/プログラミング・アルゴリズム/組み込みソフト開発 Library/工学/プロジェクトマネジメント・管理工学/Tools Library/工学/プロジェクトマネジメント・管理工学/数学的手法 Library/工学/プロジェクトマネジメント・管理工学・システム工学 Library/工学/信号処理 Library/工学/信号処理/Note_Image_Restoration Library/工学/信号処理/Note_KLT Library/工学/信号処理/Note_LinearAdaptiveFiltering Library/工学/信号処理/画像処理 Library/工学/光工学 Library/工学/制御工学 Library/工学/制御工学/Note1_古典制御理論 Library/工学/制御工学/Note2_ロバスト制御理論 Library/工学/制御工学/Note3_ディジタル制御理論 Library/工学/制御工学/Note4_現代制御理論 Library/工学/制御工学/Note5_非線形制御理論 Library/工学/学会Link集 Library/工学/情報理論 Library/工学/情報理論/気になる研究者一覧 Library/工学/情報理論/量子情報通信(コンピュータ・情報理論・アルゴリズム) Library/工学/機械工学 Library/工学/機械工学/伝熱工学 Library/工学/競馬予測_機械学習応用 Library/工学/計測工学 Library/工学/通信工学・アンテナ工学 Library/工学/電気回路 Library/工学/電気回路/電子工作 Library/工学/電気回路/電源回路設計 Library/数学 Library/数学/グラフ理論 Library/数学/ゲーム理論 Library/数学/不等式 Library/数学/代数/線形代数 Library/数学/代数/群環体 Library/数学/微分方程式 Library/数学/応用数学 Library/数学/数学基礎(集合・位相、論理学、微分積分) Library/数学/確率論 Library/数学/統計学 Library/数学/統計学/Note1_データの整理方法 Library/数学/統計学/Note2_確率論 Library/数学/統計学/Note3_確率分布の理解と乱数生成 Library/数学/統計学/Note4_推定と検定 Library/数学/統計学/Note5_ベイズ統計 Library/数学/統計学/Note6_時系列モデル・空間モデル Library/数学/統計学/Note7_統計的因果推論 Library/数学/統計学/Note8_多変量解析 Library/数学/解析学 Library/数学/逆問題・数理計画法・最適化 Library/料理 Library/料理/イタリアン Library/物理学 Library/物理学/カオス Library/物理学/力学 Library/物理学/天文学 Library/物理学/数理物理学 Library/物理学/気象学・地震学・惑星物理学 Library/物理学/流体力学 Library/物理学/熱・統計力学 Library/物理学/量子力学 Library/物理学/電磁気学 Library/社会 Library/社会/マネージメント Library/社会/交渉 Library/社会/人との相性 Library/社会/人の分類 Library/社会/働き方 Library/社会/医学部への道 Library/社会/医学部への道/センター試験倫理・政治経済 Library/社会/医学部への道/センター試験化学、2次化学 Library/社会/医学部への道/センター試験国語 Library/社会/医学部への道/センター試験数学、二次数学 Library/社会/医学部への道/センター試験物理、2次物理 Library/社会/医学部への道/センター試験英語、2次英語 Library/社会/大学教員 Library/社会/官僚 Library/社会/投資_Fund Library/社会/格差 Library/社会/歴史 Library/社会/生き方 Library/社会/組織構造 Library/社会/経営戦略・社長力? Library/社会/経済学 Library/語学 Library/語学/英語 Library/語学/英語/TOEFL Library/語学/英語/TOEIC(L・R) Library/語学/英語/TOEIC(S・W) Library/語学/英語/医学英語 Library/語学/英語/英検 Library/資格 Library/資格/SAT Library/資格/アクチュアリー Library/資格/弁理士 Library/資格/情報処理技術者 Library/資格/気象予報士 Library/資格/統計検定 Library/資格/船舶免許 Library/資格/電気通信主任技術者 Library/資格/1陸
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「とある一位の三分料理(クッキング)~とあるいちいのくっきんぐ~」 クゥ~というやや間の抜けた、それでいてやたらと自己主張の強い音が部屋に響き渡った。 「…………」 静寂。というよりも次に発すべき言葉に困っているというのが正解か。 部屋といってもここはトレーラーの荷台にマットレスと布団を運び込んだだけの簡易の休憩所とでも言うべき場所だ。いや、より正確には簡易の病棟か。 とうとう沈黙に耐え切れず看病される側の少女が喋りだした。 「看病してる張本人がそれはどうなのってミサカはミサカは素朴な疑問をぶつけてみる。 っていうかあなたでもそんな風なリアクションをすることがあるんだねって」 「黙れ」 そう、それは仕方の無いことだったのだ。 ロシアへと入ってから移動詰めで、途中数度の戦闘もこなし、更には一人の少年に八つ当たりした結果それはもう見事な返り討ちに遭い、気がついたらエリザリーナ独立国同盟へと向かう車列の中に紛れていた。 その後、とりあえずの集結地点に着いたということで車列は現在簡単なキャンプへと変化していた。ところが、その即席のキャンプで一息つけている人間はまだ居ない。ロシア側からの襲撃があったとかで通信・連絡のための設備に損害が出ているらしく、その復旧と方々への伝達で軽く混乱状態に陥っているためだ。これが収束するにはもうしばらくの時間が必要だろう。 そう、まともに食事するタイミングなど無かったのである。超能力者(レベル5)だって腹は減る。 「でもそんな凄い恥ずかしそうなあなたの顔はなんだかとってもレアな気がするので、 これはこれでいい思い出になりそうってミサカはミサカは評価してみたり」 そして相手が打ち止め一人ならばまだ気も楽だっただろう。病人とは構って貰いたくなるものだし、いつものやり取りと言えばいつものやり取りであるわけだし。 「仮にも学園都市の第一位がそんなコントなリアクションでいいわけ? っていうかミサカはこんな腑抜けにボコボコにされたのかと己の不甲斐なさを反省しつつ、 早速このレア画像をミサカネットワーク上に拡散するという嫌がらせを実行することで 憂さ晴らしをするよと宣言することで更に精神的な追いつめを狙ってみる」 そう、今一方通行達が居る病棟にはもう一人収容されていたのである。 番外個体(ミサカワースト)。 学園都市が送り込んできた一方通行への刺客。 それなりに重症だったはずなのだが、何時の間に治療を受けたのか気がついた時には傷は全て処置されていて、それどころかセレクターが起爆した時の細かい破片すら綺麗に取り除かれていた。とてもそれだけの医療設備が整っている環境ではない今の状況でこれだけの治療が行なえる、いや既に行なわれたという事実は大いに見過ごせないことなのであるが……。 「そもそも化物(だいいちい)が何そんな普通の人間じみたやり取りしちゃってるわけ?」 意識が戻ってからずっとこの調子。チクチクと一方通行の心を悪意――と呼ぶにはいささかチープではあるが――の針で突き続けているのである。真綿で首を絞めるかのような、本当に地味で、そして効果的な嫌がらせだった。 「黙ってろっつってんだろうがァ!」 前方の病人(ラストオーダー)に後方の病人(ミサカワースト)。 あまりの居た堪れなさに食料の調達という名目でそそくさと車両を後にした一方通行に『学園都第一位(最強の超能力者)』の威厳は全く無かったのは言うまでも無い。 (食料調達っつってもなァ……) はっきり言って自分にはまともな対人コミュニケーション力は無いという自覚くらいは一方通行にもある。 しかも今居る場所は半ば難民キャンプの様相を呈している仮宿で、その上自分は気がついたらそこに居たという完全な部外者だ。 知り合いはゼロ。車列が到着した時に簡単に案内をしてくれた金髪の男も今は自分の仕事に戻ったのか見当たらない。 (仕方ねェ、少し周りを見てくるか……) とりあえずはキャンプの様子を把握するところから始めることにした。 目に付いたのはいかにも『難民』ですという人間達だ。 自分が乗ってきた車列がそもそも何の車列だったのかさえ知らなかったのだから当然と言えば当然なのだが、 着の身着のまま逃げてきましたという風情で焚き火で暖を取っていた集団を見てようやく、そうした人間達を受け入れるためのとりあえずのキャンプであるらしいと分かったほどだ。 幸いだったのはキャンプの中をうろつく間に件の金髪の男も見つかったことだ。 「おや、君か。どうかしたかい? まさか連れの女の子達の容態が悪化したとか?」 まあ、普通はそう思う。まさか小腹が空いてなどという理由をこの状況で真っ先には浮かべまい。 「……あァー、病人用の食事ってのは用意ができンのかと思ってよ」 さすがの一方通行も自分の腹が減ったからとは言い出せなかった。 「食事? ああそうか、そこまで気が回っていなかったよ。 確かに君のお連れさん達の様子じゃオートミールとか何か消化の良いものを用意しないと……」 と、そこまで喋って不意に男の声が途切れた。 「何か問題でもあンのか?」 「ああ、いや問題というほど問題ではないんだが…… 今運び込んである食料は全部調理前というか、ジャガイモだとかベーコンだとか そういう『食材』の状態なんだ。というか、炊き出しの準備もこれからという有様でね。 難民の中にも小さい子や老人が居るからどの道食べやすい食事は用意するんだが、少し時間がかかりそうだ」 男の視線の先に眼をやれば、今まさに大量のダンボール――側面にロシア語でポテトと書かれたものや、 何か缶詰のメーカーのロゴが入ったものなど――が荷降ろしされているところだった。 要するに『オアズケ』ということだ。 ぐぅ、と今度はそれなりの音量でその主張はされた。 「ははっ、君も空腹な人間の一人というわけか。小型のコンロとかもあるはずだから、待てないようなら必要な分を持ち出してしまって構わないよ」 「はァ?」 そう、男はこう言いたいわけである。炊き出しが待てないなら自分で作ってもいいぞと。 普段の一方通行ならそのまま大人しく支度がされるのを待っただろう。何より面倒くさいという理由で。 しかしこの時だけは違った。何せ車内に居る間延々とチクチク嫌味に晒されてきたのだ。いい加減ストレスも溜まっていた。更にそこに、男のふとした一言がダメ押しになった。 「最も、君が料理ができるのならだけども」 男の方からすれば本当に何のことはない一言だったのだろう。だが、当の一方通行にはそうは聞こえなかった。 (ったくどいつもこいつも、俺が戦うしか能が無いみてェに言いやがってよォォ……!) 彼は元々短気な方なのだ。 そして……結構負けず嫌いである。 料理は学問と芸術を合わせたよりも難しい。 そう言ったのは果たして誰だったか。 もしその人物がこの光景を見れば自らの発言を取り消すか、あるいは、料理している人間を絶賛し、喝采し、そして恐怖しなければならないだろう。 一方通行の『ベクトル操作』は確かに強力で、戦闘に使えば絶大な威力を発揮する。しかしそれ以外の使い道が無いわけではない。 事実、彼は芳川や番外個体といった人間の命を繋ぎとめることに力を使ったことがある。 何もしていなければ確実に死んでいたであろう状態の者達だ。 他にも打ち止めの脳内のウイルスコードを生体電流を操作することで消去したり、妊婦の状態を診察したりと応用の幅は広い。 いや、広いなどという表現では恐らく生温い。彼の能力はそれこそありとあらゆるベクトルに干渉し、それを操ってみせるのだから。 この世界において、何かしらの法則を持って成り立つ現象であればどんなことにだって干渉し得る力、それが、それこそが第一位だ。 そしてその絶大にして万能なる力が―― 何故か、炊き出しの準備にと発揮された。 突然漂ってきた食欲をそそる香りにキャンプに居た人間達は首を傾げる。 もう炊き出しの用意が出来たのかと驚きながらも香りの出所へと移動して来た者達はそこで不可思議な光景を目撃する。 大鍋の周囲に人だかりが出来ていて、けれども誰も手をつけようとしない。 いや、何かに驚きすぎて次のリアクションが起せていない、といった風だ。 それは、確かに異常な光景だった。 表面を撫でるだけで野菜の皮剥きが完了する。皮だけを切り取る能力でも使ったかのような見事な出来栄えで。 身の一かけらだって皮の方には残っていない。 (余計な力は要らねェ、ほんわずか表面を剥ぎ取りゃあいい) 軽く揺らすだけで均等にかつ不自然に野菜がバラバラに崩れる。もはや包丁などという器具に存在価値は無い。 (細胞同士の繋ぎ目を切断するように力をかける。煮崩れる心配は無ェ、最初から食べ易いよう細かくだ) 作っているのはスープ。けれど煮込む時間は必要ない。全ての材料を入れ軽くかき混ぜる間に味は均等に染み込んでいる。 (浸透圧を弄ってやりゃァいい、どうせ長時間は力を使えねェ) 色と味の決め手はビーツという根菜。 (見慣れねェ食材だろうが知ったことか、レシピ通りにすりゃいい) 果たしてこの作り方がレシピ通りと言えるかはさておき、調理の異様さと相まって毒々しさすら覚える真っ赤なスープ。 200人分というスケールにも拘らず、僅か数分でそれは完成した。 「いやはや、これは驚いたな……学園都市ってのは一体何を研究しているんだい?」 金髪の男の疑問はもっともだ。 たったの数分で炊き出しの料理を完成させる、などというあまりにアレな力の使い方が、 ロシアの上空を飛び回っている怪物航空機と同じ街の研究結果だなどと言われて誰が信じるというのか。 一方通行が戻ってくるのと同時に、車内に広がった食欲をそそる香り。 そして彼の手にあるトレイと3人分の食事を見て、打ち止めと番外個体は顔を見合わせた。 「いきなり能力を使い出すから何があったかと思えば……」 「っていうか野菜のアク抜きが一瞬で終わるなんてちょっと便利かもって ミサカはミサカは率直な感想を述べてみる」 分かっていた。 ミサカネットワークに頼って能力を使っている以上、能力を使用すればある程度は何をしているか把握されてしまうことぐらい、 忘れていたわけがない……のだが、その後こうして弄られるネタを提供することになることまで何故気がつかなかったのか。 「妹達を1万人以上殺した第一位が手ずから料理とか、正気を疑うねとミサカはバッサリ切り捨ててあげる」 まあ、食べてる間くらいはこの陰湿なイジメも収まるだろうと、何よりせっかく作ったのに食べられる前に冷めてしまったのではあんまりだと、 番外個体からの嫌味を聞き流しつつ器とスプーンを2人に渡していく。 「とっとと食って寝やがれ、病人共」 できれば本当にそうなって欲しいと、ささやかな祈りを込めつつ食事を促す。 「それじゃいっただきまーすって、ミサカはミサカは久々にあなたの前で言えて少し嬉しいなとか思いつつ、 あなたが料理下手だったらどうしようってドキドキしながら一口目を食べてみる」 「まあ、食べてみないことにはどれだけ不味いかを言いふらせないしね」 大小2人のミサカは食べる前に好き勝手に一言のたまってから、それを口に運ぶ。 そして…… 「嘘だ!! 料理が上手いなんて第一位のキャラじゃない!」 「メチャクチャ美味しいー! ってミサカはミサカは評価してみる!」 一口食べただけでこのリアクションである。 レシピ通りなんだから不味いわきゃねェだろうが、と一人黙々と食べ進める一方通行と、 2口目からは黙々と、というよりもむしろガツガツ、という食べ方になったミサカ達が皿を空っぽにするのにさほど時間はかからなかった。 「いやぁー、あなたにこんな特技があったなんて驚きどすなぁってミサカはミサカは感心してみる」 「べ、別に美味しかったから食べたんじゃなくてお腹空いてただけなんだからね!」 「あァ? 何言ってンだテメェ?」 どうということはないのかもしれない。 他愛も無いやり取りに過ぎないのかもしれない。 けれどそのどうということは無いはずの時間が一方通行にはたまらなく眩しい。 他愛の無いやり取りの一つ一つを、忘れぬようにといつかそれが当たり前になるようにと、 己が進むべき方向を間違わぬよう記憶に刻んでいく。 再び眠りに付いた打ち止めと番外個体に毛布を掛けてやりながら、「ま、またそのうちにな」なんて 柄にも無いことを呟いてみるのだった。 もちろん、狸寝入りだった番外個体に散々からかわれた挙句、 ミサカネットワークを通じて打ち止め他妹達全員にリークされることになるのだが……それはまた別のお話。